今宵、ロマンチスト達ここに集いて




「父が向き合ってきた仕事を垣間見れて、ずいぶんと気持ちの持って行き方が変わったように思います。正直なところ、まだまだ父について知らないことや知りたいことはたくさんありますが、父の仕事に近くで接することができて、今まで見たこともなかった父を見られて、新しい発見もあったんですよ?」


こんなことなら、もっと早く父の仕事に触れていればよかった。
仕事の合間に見かけた父の姿は、時折り家で見ていたものと違ってたりして、とても新鮮だった。
気分転換に口にするのは甘めのカフェオレだったり、ランチには麺類を好んで選んでいたり、そんな些細なことでも、私には嬉しい驚きだったのだ。


「それはよかったわ」

前崎さんは、まるで自分のことのように嬉しそうに言ってくれた。
それはホッとした様子にも見えた。本当に、心の優しい人なのだろう。
私は、時間潰しのつもりで披露した自分語りが前崎さんにどう聞こえるのか読めなかったが、心配なんか無用だったようである。


そして、二人して目を合わせて笑みを見せ合ってから、私は窓辺に近寄って丸い月の明かりを浴びた。
さっきよりは高い位置にいたが、消灯まではまだしばらくあるだろう。
今のうちに、仮眠室からブランケットと枕代わりのクッションを持って来ようか…
でも、なんだか今夜は前崎さんから離れ難い。
この前、私の目の前で急変した姿が、目に焼き付いているのだから。


そうやって私がグズグズ迷っているうちに、前崎さんの部屋の扉が、トントントンと三回鳴ってしまったのだった。









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