今宵、ロマンチスト達ここに集いて




「だってこのあと、わたし達の息子とも会わなくちゃいけないんだから、きっとそこでも泣いちゃうだろうし……。いちいち大泣きしてたら脱水症状になっちゃうわよね」

前崎さんらしいセリフが戻ってきたので、私も「そうですよ。もうすぐ息子さんが会いに来てくださいますよ」と明るく返した。

「そうね、あの子が来たとき、涙でぐちゃぐちゃな顔は見せたくないものね」

彬文さんの腕から離れ、私に照れ笑いを見せてくれた前崎さん。
けれど、彬文さんの方は少し違和感のある顔をされた。


「え……?」

聞こえるか聞こえないかの大きさでそう呟くと、私を向いてる前崎さんの後ろで、ちらりと私の上司に視線を流したのだ。
彬文さんに背を見せてる前崎さんには見えてなかったかもしれないが、私には、上司がかすかに首を横に振るところまではっきり分かってしまった。


この二人の間には、何かあるのだろうか?
いや、時間を移動できるという共通の能力を持っている二人なら、意思疎通できることも多いのかもしれない。
私の頭の中は、くるくるとせっかちに回っていた。

そしてそれは、彬文さんが「千代、」と柔らかく前崎さんの名前を呼ぶまで続いた。


「はい」

名前を呼ばれることすら幸せだと言わんばかりの満面の笑顔で、前崎さんは無邪気に彬文さんに振り向いた。
だが私は、これから彬文さんが何か重要なことを発言するのではないかと、無意識のうちに心構えてしまう。
気にし過ぎかとも思ったが、それは決して間違いではなかったのだ。




「俺達の息子なら、もう、ここにいるよ」









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