今宵、ロマンチスト達ここに集いて
「俺達の息子なら、もう、ここにいるよ」
………彬文さんは、今、なんて言った?
俺達の息子なら、もう、ここにいるよ―――――?
私は、聞こえてきた言葉を額面通りには受け取れず、その裏にあるものを瞬時に探しだした。
比喩、例え言葉、隠語もしくは暗号………その気になれば、解釈はいくらでもあるように思えた。
けれどそれは、私が、一番可能性の高い真実を、そんなのは信じられないと拒否したがっているせいなのだろう。
俺達の息子なら、もう、ここにいるよ―――――
だってつまり、それは、
前崎さんご夫婦の息子さんがもう既にここにいるということは、つまり、その人は…………
「…………アヤセ、さん?」
前崎さんの臆病で繊細な問いかけが、揺らいで響いた。
その腕はまだ夫に支えられているが、注目は一心不乱に私の上司を目指していて。
”アヤセさん” と、そう呼んだときの横顔は形容しがたいほどにたくさんの感情が入り混じっていて。
それでも、彬文さんがこの期に及んでおかしな冗談を言うはずもないと分かりきっていて。
だから、彬文さんが言った ”俺達の息子” が、誰を指しているのかは自然と導き出されて。
前崎さんは恐る恐る、まるで決定的な答えを求めるように、彬文さんを見上げたのだった。
すると彬文さんは前崎さんには目で答え、すぐさまアヤセさんに告げたのである。
「あれを、千代にも見せてやってくれ、アヤセ」