今宵、ロマンチスト達ここに集いて




ちなみに趣味は映画鑑賞、特技は時間移動。
好きな食べ物は麺類、苦手な食べ物は辛いもの全般。

最後にそう付け加えたとき、前崎さんと彬文さんは「彬くんと同じね」「千代と同じだ」と同時に言った。
どうやら、映画と麺類好きは彬文さん、辛いものが苦手なのは前崎さんに似たようだ。
するとそれを知った文世(アヤセ)さんは嬉しそうに「そうなんですか」と目尻に年齢相応のシワを走らせた。


「実は、映画好きになったのは、物心ついたときから持っていたシャーペンがきっかけなんです。小学生の頃に、そのシャーペンにプリントされているタイトルが古い映画だというのを知って、観てみました。残念ながら、子供にはまだその映画の面白さは分からなかったのですが、そのシャーペンは会ったことのない父が愛用していたものだと教えられましたので、何度も何度も繰り返して観たんです。そうしたら、何度目かのときに、急にそれまでとは違った感想を持ったんです。確か中一になってました。それからは、映画の魅力にどっぷりと……」

「まあ、それじゃ、一緒にいられなくても、わたし達はちゃんとつながっていたのね」

「そうだな。千代がくれたシャーペンが、文世と俺達を結んでくれてたんだ」


親子の団欒(だんらん)は、それこそ映画によくある仲良し家族のシーンと何ら変わりはなかった。
時おり彬文さんが咳き込むことはあっても、お二人とも表情は明るくて、弾んでいた。
時刻はとっくに消灯時間を越えていたが、今晩はこの部屋から明かりが消えることはなさそうだ。

私は彬文さんの咳と前崎さんの様子を気にかけつつ、余計な口は挟まずに、その幸せな映画を眺めているような感覚でいた。









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