今宵、ロマンチスト達ここに集いて




「あなたの存在が、わたし達のあの夜の決断が正しかったのだと教えてくれたのよ」


耳もとに届く前崎さんの声は、どこまでも柔らかだった。
頭と背中を撫でてくれる前崎さんの手は、信じられないほどに優しかった。
両親の愛情を疑っていたわけではないけれど、こんな風にダイレクトに示される愛情には慣れていなくて。
だが、惜しみなく注がれる祖母からの親愛に戸惑いながらも、私は、祖母の体温に安らぎを感じていた。
まるで、私だけに注がれたホットミルクのように。


「ありがとう。ありがとうね、千彬(ちあき)さん」



前崎さんはそう伝えてくれたあと、「……っ」と、少しだけ痛みが走ったように表情を崩された。
それだけではどこに痛みがあったのか判断できないが、「大丈夫よ」と本人はいたって明るく答えてくる。
本来なら、私は、患者さんの痛みには敏感になるべき立場なのだが、最後の夜という認識でいる今夜に限っては、医師への細かな報告は無粋だと思った。

「せっかくこうしてみんなが集まってくれてるのに、無理がきかない体になっちゃって、だめね……。少し、休ませてもらおうかしら。まだみんな帰ったりしないわよね?」

ソファから、彬文さん、私、私の父を見まわす前崎さん。
どこか心配げに眉を寄せていて、だから彬文さんと父は「まだ帰らないよ」「もちろんです」と即答していた。


「私は、ずっと、ここにいます」

二人に遅れて私がそう返すと、前崎さんはソファから立ち上がりながら、

「それなら、良かった」

お顔全部をくしゅっとさせて、それはそれは幸せそうに笑ったのだった。









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