今宵、ロマンチスト達ここに集いて
『千代、わかった……。わかったから………』
耳もとで聞こえた彬くんの制止は、どうにか絞り出したようなか細さで、そして、あきらかな鼻声だった。
なのにわたしは、泣くどころか、父と母の身に起こった出来事を理解しきっていなかったのかもしれない。
もう父とも母とも言葉を交わせないだなんて、この時にはまだ、とてもじゃないけど実感できていなかったのだから。
『お父さんもお母さんも、早く起きなさいよ。何やってんのよ。早く帰るわよ』
『千代……』
『ほら、お母さんってば!早くそのブラウス着替えなきゃ、シワになっちゃうわよ?』
『千代…』
『お父さんも!明日は月曜だから朝から会議があるんでしょ?いつも月曜は早めに出勤してたじゃない。だからさっさと帰って、明日の準備しなきゃ』
『千代』
『―――っ!早く起きなさいってば!二人とも、目を開きなさいよ!無視するんじゃないわよっ!聞いてるの?ねえ、ちゃんとわたしの話し聞いてるの?!』
わたしを抱きしめる彬くんの腕を、ドンドンと拳で叩く。
『お父さんっ!!お母さんっ!!』
絶叫が、お腹の底からの叫びが、部屋中に響き渡る。
『千代!』
『お父さんっ!お母さんっ!ぃいやぁぁぁぁ―――っ!!』
もう言葉すら成さない感情は、咆哮となって荒れ狂った。
『俺がいる。俺がいるから………!』
彬くんの震える声は、繰り返し繰り返し、ずっと、わたしを抱きしめてくれていた………