今宵、ロマンチスト達ここに集いて




いつだったか、魔法使いが出てくる物語を数冊買って帰ったときは、

『お前は、お母さんとお父さんを幸せにしてくれる魔法使いみたいなものだからな』

跪いて、わたしのお腹に笑いかけた彬くん。
そして、

『相変わらずロマンチックなことを言うわね』

ある意味感心したわたしに、こんな返しをしてきたのだ。

『じゃあこの子もきっと、俺に似てロマンチストになるな。楽しみだ』

そう言ってわたしを振り仰いだ。
その彬くんは、どこから見ても幸せそのもので、わたしも、泣きたくなるほどの幸福感に浸らせてもらったのだった。


しばらくして、お腹の赤ちゃんは男の子だと判明した。
正直なところ、性別なんてどちらでもよかった。
無事に育ってくれますように、元気に生まれてきてくれますように……
わたし達の願いは、ただそれだけだったのだから。


やがて、その時がきた。
そろそろだと心の準備は万端だったものの、やはり初めてのことだらけの出産は想像してた以上で、わたし達夫婦の場合はどちらの両親もいないことから、頼れる人も少なく、不安事もきりがなかった。
だが、そんなわたし達の境遇を知った病院スタッフの方々が何かと手助けしてくれて、初めての陣痛に心が弱気になっていたわたしは、感謝の言葉では足りないほどの助けをもらった。


そして丸一日かかり、3130グラムの元気な男の子を出産した。


けれど、元気(・・)と言えたのは、生まれてから数日までの短い時間だったのだ。










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