今宵、ロマンチスト達ここに集いて




わたし達のもとにやって来てくれた息子に、わたしも彬くんも、父親として、母親として、全身全霊の愛情を注ぐことに時間を惜しまなかった。
その合間に、いくつか候補があった名前についても家族会議を開いて、体力面ではへとへとになりながらも、満たされた幸せな時間を過ごしていた。



そんなある夜のことだった。
二日後に退院を予定していて、わたしは、それから始まる親子三人の暮らしに若干の不安はあったものの、それを上回る希望に胸を躍らせていた。


日曜日でお休みだった彬くんは昨夜から病院に泊まり込んでいて、一緒に赤ちゃんのお世話をしていた。
夕食の時間になり、彬くんが病院の外に食べに出ると、部屋にはわたしと赤ちゃんの二人きりになった。

この病院は日中は母子同室で、夜間のみ新生児室に預けることになっていて、わたしは、看護師さんが赤ちゃんを迎えに来てくれるまでのひとときを、愛しい息子と過ごしていた。


すやすやと機嫌よさそうに眠っている我が子が、たまらなく可愛い。
わたしが指を近付けると、その小っちゃな手できゅっと握ってきて、ああ、この子は何があってもわたしが守るんだと、誰に対するでもない誓いが何度も何度も心の中で繰り返されていた。
これが母性というものなのだろうか。
そう思うと、ふと、母が頭に浮かんだ。
もし母が今も生きていたなら、きっと毎日ここへ通ってきたことだろう。
もちろん、義母も同様だ。
二人して、やれ目がどちらに似てるだの、耳はどっちの家系だのと盛り上がっていたに違いない。
そんな想像をしていると、やっぱり、両親の不在がずしんと気持ちに錘を乗せてくる。

……だめだ。
せっかくの親子の時間なのに。
わたしは過去に向いていた心のハンドルをいっぱいにまわし、未来へ切った。








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