マリアージュ・キス
冷静沈着、どんなに前日の夜に飲み会で飲んだくれても翌日にまったく持ち込まない、後輩の面倒見もいい、先輩からの信頼も厚い、根明というわけではなさそうだけど、根暗でもない、営業成績も毎月これといった沼にハマることもなく必ずそれなりの結果を残してくる、そして顔面偏差値も悪くない、相楽律。

入社した時から同期の中では仲のいいほうだ。

そして私は知っている。
ヤツが他部署の女の子から、さりげなくご飯や飲みに誘われているのを。
決してまったくモテないわけではないのだ、この男は。


「あぁぁぁぁ、ごめん!」

自責の念に駆られて私は自分の頭をゴン!とテーブルに打ちつけるようにして謝った。

「えっなにが」

勢いよく顔を上げると、驚いた表情の相楽。
ヤツを想っている可愛い後輩ちゃんのことを思うと申し訳ない。

「相楽のこと好きな子とかもいるわけじゃん?…いや、その前にちゃんとした恋人とかいるんじゃ…うわぁぁ本当にごめ」

「それは大丈夫。彼女いないから」

遮って断言されて、私の肩に入っていた力が弱まる。

「それよりも大原って長年付き合ってるやついなかった?」

「ソレハイツノハナシデスカ」

突然ペッパーくんと化した私に、相楽は苦笑してごめんと前を向いた。

「別れてたの?」

「もう二年も前の話だよ。さすがに思い出しても涙も出ないレベルまで来ました」

「知らなかった」

「言ってなかったっけ?」

「大原っていつもそうだよね。仲間内に弱みは見せない」

“強がり”って言われてるみたいで、でも反論しがたい。
プライベートで何かあった時こそ、仕事には絶対に支障が出ないようにひた隠しにしてきた自覚はある。

そういえば少し前まではよく相楽と二人で飲みに行ったりもしたけど、ここ最近はどうしてかご無沙汰だった。


「カレシにはちゃんと弱みは見せるタイプ?」

「うーん、どうかな…」

なんでなのか、私の恋愛観へ話が移行してしまった。
気づけば相楽のジョッキは空になっている。私もようやくハイボールに口をつけた。

「自分が弱ってることを、自分の口から言いたくないんだよね。だから次に付き合う人は、そういうのもぜんぶ察して、何も言わないで支えてくれる人がいいなって思ってる」

言ってから、そういえば…と思い出していた。
二年前まで付き合っていた元彼のことを。


< 6 / 13 >

この作品をシェア

pagetop