遅咲きの恋の花は深い愛に溺れる
いつものように和花と秀人、お互いの帰り時間を合わせて帰宅の途につく。
だが今日の和花は終始無言だ。いつものような柔らかいふわりとした雰囲気がないように感じられる。

「和花どうかした?」

「いえ」

「何か怒ってる?」

「怒ってないです。」

「仕事中も何か変だったけど。体調でも悪い?」

「悪くないです」

和花は自分でも思ったより不機嫌な口調になってしまい、それが逆に気まずい雰囲気を作り出した。そんな和花に秀人は怒るわけでもなくそれ以上追及することもしない。

「ゆっくり休んで」

いつもと変わらない秀人の優しい言葉。
だが今日は別れ際のキスもなく、静かに玄関の扉がパタンと閉まった。

和花は大きなため息をつきながらその場でズルズルと座り込む。

(……寂しい)

人間の気持ちは勝手だ。
ストーカーされたり執着されたり、最低で大嫌いだ。そう思っていたのに、いざ秀人にあっさりされるとこんなにも寂しい感情がわき上がる。

(もっと佐伯さんのこと知りたいし、もっと私のことを見てほしいのに。やっぱり私だけが好きなのかな?)

どうしようもない気持ちは和花の心をずんと重くさせた。
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