託宣が下りました。
フランソワはバンバンとベッド脇の小卓を叩く。ヴァイスは嫌そうに叔父を見やった。
「じゃあ大人になってからで」
「その前に私が死ぬかもしれん。そういう話だ」
「どう考えても最近元気に見えるが」
「うっ。持病の癪が」
「叔父上俺を馬鹿だと思ってないか?」
「思っとる。大いに思っとる――この大馬鹿が! なんだ十五にもなって人の家に忍び込むなどと、おまけに理由が嫌がらせだと!? どんな恥知らずなんだお前は!」
「ほらやっぱり元気だ」
「うっ。持病の感冒が」
「それただの風邪だろう」
ヴァイスはやれやれと椅子から立ち上がる。
「そんな恥知らずにわざわざ継がせる必要もない。無理せず騎士を返上すればいい。どうせうちはもう騎士の家ではないんだ」
かつて――
フォーライク家は『騎士の家』と呼ばれていた。何代目かの当主が戦で『騎士』を手に入れて以来、代々男子は何かしらの理由で――継ぐか、戦で授与されるか――『騎士』を手に入れてきた。
「金で買ったことはない。それがフォーライク家の誇りだ!」
フランソワは常々そう言っていた。
そこを誇りに思うのなら、行状から言って資格のない甥に無理やり『騎士』を押しつけることも十分誇りを汚すことだとは考えないのだろうか。
それを口にすると、フランソワは遠い目をした。
「なに……死期が近くなると大切なものに固執したくもなるのさ。私はこの称号が人生のすべてだった……。たとえアホの甥に継がせてでも、消滅させたくないと思うほどに」
「死期? 五十年くらい先の話か?」
「ううう持病の大腿骨頭すべり症があああ」
「どこから出てきたその病名は」
ヴァイスはやれやれと腰に手を当てた。
「……知らんぞ。恥知らずの甥にそんなもん継がせてどうなっても」
フランソワは顔を輝かせた。とたんに生き生きと楽しげになる。
「そうかそうか、それでこそ騎士の家に生まれた子だ。お前も騎士の名を継げば少しは大人しくなるだろう。これ以上フォーライクの名が貶められずに済む……うむ、うむ、これでいい。私がフォーライク家のためにできる最期の仕事だ」
「その『最期』っていうのは百年ぐらい先の話か?」