託宣が下りました。
 たしかに、本気で好きなんだと言われたら――それを振り切るのは胸が痛みます。

 けれど、そんな中途半端な気持ちを理由にして求婚を受けることは、かえって失礼なのではないでしょうか?

「俺は何が何でも惚れさせるがな、巫女を」

 騎士がそんなことを言い出すので「それはともかく!」わたくしは断ち切りました。

「マックスと話し合うのは……」

 シェーラは両手で口元を覆い、悩んでしまいました。

 シェーラがマクシミリアン様と直接話したがらない理由は、何となく分かる気がします。たぶん――直接本人と話してしまうと、情が動いてしまうのでしょう。

 そしてそれではいけないと、シェーラ自身が思っているのです。

 例の、失礼きわまりないプロポーズが拒絶の直接の原因。けれど付き合いが長いならもっとたくさん――先ほどシェーラが力いっぱい主張したように――断る理由があるに違いありません。

 同じくらい、受け容れてもいい理由も。

「シェーラ、ひょっとして」
「い、言わないで」

 わたくしが言いかけるのを、シェーラは激しく首を振ってとめました。両手で頭を抱え、

「だから考える時間がほしかったのよ! それなのにお父様たち、今すぐ結婚しろ結婚しろって――!」
「シェーラ、落ち着いて」

 心を乱した彼女を、わたくしが何とかなだめようとしていたとき――。

 騎士が動きました。突然寝室を出て行くと、戻ってくるなり重々しく告げました。

「伯爵が帰ってきたらしい」
「――え」
「侵入者に気づいてこの部屋に向かってるようだ。どうする巫女、シェーラ殿?」

 わたくしは心臓が止まるかと思いました。思わずシェーラと手を取り合い、息を呑みます。

 一気に混乱する頭の中で、ひとつだけ明確な疑問が浮かんでいました。どうして騎士には、伯爵の動きが分かったのでしょうか……?
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