託宣が下りました。
「シェーラ、あなたの勇気は本当に素晴らしいものよ。わたくしにはできないと思う」

 わたくしも両親と一悶着ありました。けれど最終的には、渋々ながらも修道院入りを許してもらった身です。

 断固として反対されたときに、シェーラのように徹底的に抵抗することができたかどうか。
 まして許可のないまま、ひとり家を飛び出すことができたかどうか。

(シェーラの心を守らなければ)

 わたくしは強くそう思いました。

 シェーラの志は守られるべきもの。そして志は、本人が一人で守る必要などないのです。周囲の人間の協力こそが重要――!

「もうひとつ、いいか」

 わたくしの気合いの腰を折るように、騎士が口を挟んできました。

「どうかしましたか? ヴァイス様」

 シェーラが受けると、騎士は「いやあ」と後頭部を撫でてあいまいな顔をしました。

「……こっちの選択肢は絶対なしか? 『マクシミリアンとよく話し合う』という――」

 とたん、シェーラが「う」と苦虫を噛みつぶしたような顔になりました。
 騎士は自身も悩むように視線を空中でさまよわせながら、付け足しました。

「マックスは俺も知り合いでな。けっこう懐かれているんだ。俺が言ってもしょうがないが、そんなに悪いやつではないぞ?」
「そ――そんなことありません!」

 弾かれたように、シェーラは声を上げました。

「あんな、プライドが高くて人の話を聞かない男、願い下げです!」
「人の話を聞かない……」
 わたくしはじとっとした目でシェーラを見ました。「でもシェーラ、あなたわたくしにヴァイス様をおすすめしたわよね?」

「ヴァイス様とは話が違うわ。まだ自力で何の結果も出していないくせに、自分の家が裕福なのを笠に着て本当に偉そうなんだから!」

 シェーラは顔を真っ赤にしてまくしたてます。このことに関して、彼女の中に溜まったものがあったようです。

 けれど騎士は呑気に言いました。

「だがなあ。マックスの性格からして本気でなければ求婚などしないだろうから、相当シェーラ殿に惚れていると思うぞ?」
「……それは……」
「騎士ヴァイス、それは別問題です」
 わたくしは思わず口を挟みました。「一方的に好きになられたら結婚が決まってしまうのはおかしい」

 声に思わず実感がこもってしまったのは、この際許してください。
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