託宣が下りました。
 シェーラがレイリアさんを叱るのをまるで遠くのことのように聞きながら、わたくしはぼんやりと周囲を見渡しました。

 自分の部屋です。星の巫女として認められていたわたくしは、小さいながらも個室を与えられていました。必要最低限のものしか置かず、修道院の外の女性たちが見たらありえないと首を振るほどに殺風景なお部屋。

 けれど一人静かに勉強やお祈りをするのに最適で、窓からはきれいな星空も見え、とても素晴らしい部屋でした。

 その部屋とも、これでお別れです。


 今回は託宣が公に否定されたことで、国が大騒ぎになりました。
 修道院の威光に関わると、修道院内ではわたくしの処遇について大変争われたそうです。

 わたくしはあらゆる人に、毎日のように散々話を聞かれ――

 一日、一日経つごとに、どんどん憔悴していきました。

 同時に痛感しました。今回の託宣はそもそも内容がアレでしたので、以前から問題視はされていたはずなのです。それなのに、今になってこれほど騒ぎになる――それはつまり。

 修道院の者はみな、託宣の内容が正しいかどうかよりも、それを王宮が認めなかったことを気にしているのだと。


 アルテナ・リリーフォンスを追い出すべきだ、いや修道院がそんなことをしてはだめだ。争論は続きました。

 あまりに意見がまとまらないので、やがて修道院の上層部は妥協案を導き出しました。――『本人に決めさせよう』。

 わたくしが何より突き放された気持ちになったのはこのときだと、分かってもらえるでしょうか。


 修道長アンナ様は、『いてもいいのよ』と仰ってくれています。
 ですが、顛末を聞いた実家から、怒濤のように『帰ってこい』の手紙が届いていました。

 娘がこれ以上ない恥をかいたことで、父は王宮に対して怒りを爆発させていました。もしも家が王都の貴族であったなら、父は二重に恥をかいたのでしょうが、幸いなのかどうか父は王都の人間でも貴族でもありません。

 それだけに、迷いなく『帰ってこい』と言えるのでしょうが……。


 ――修道女として生きることを選んだ以上、何があっても修道女として生きるべきだと、頭ではそう考えています。

 けれど、心がついていかない。もう疲れたと、膝をかかえてうつむく自分が見えるようです。

(……わたくしは、こんなに情けない人間だったのね)
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