託宣が下りました。
 悩みました。悩んだあげく、わたくしはアンナ様と父の両方の言葉に甘えることにしました。

 つまり、実家に一度帰宅して休むこと――。

 そして、きっと修道院に戻ってきてみせようと。ここに残るシェーラとの友情、そしてなけなしの勇気と元気とで、そう誓ったのです――。



 帰るための馬車は実家のほうが手配してくれる予定でした。

 迎えが来る約束の日。わたくしは修道院の客室で、荷物を抱えて馬車の到着を待っていました。

「遅いわねー」
「うるさいですよシェーラお嬢様。アルテナ様よりイライラするのはおよしください」
「あんたがいるから余計にイライラするのよ!」

 一緒に待ってくれているのはシェーラとレイリアさんです。最近この二人は常に一緒にいます。

 お目付役を理由にシェーラにつきまとうレイリアさん。
 シェーラは心底嫌そうですが、わたくしは内心ほっとしています。

 シェーラは友人が多いのに、肝心なことは胸に秘めがちだということが、先日の結婚騒動で分かった気がするのです。それだけに、本音を何でも言えるレイリアさんの存在がありがたいのではないか、と。

(シェーラの力になれるのはわたくしなどではなくて、レイリアさんのような人かもしれない……)

 ……ああ、いけない。また後ろ向きになっています。

 心が弱り始めると何もかもが悪く見えてしまって、その上悪く考えるほうが楽なのです。逃げる理由になりますから。

 逃げたい。そう、逃げたいのですわたくしは。何からかはもう、めちゃくちゃで、さっぱり分かりませんが、とにかく逃げたいと。

(駄目。こんなことでは修道女に戻れない)

 ああ、早く休んで元気にならなければ――。

 客室に一人の巫女見習いがやってきて、馬車の到着を告げました。
 わたくしたちは修道院の下働きの方に荷物を持ってもらい、外に出ました。

 今日はとてもよい天気でした。ただ、風が強いでしょうか……。

 馬車は、修道院の裏口前に停まっていました。わたくしもよく知っている我が家の馬車です。懐かしさに思わず駆け寄ってしまいそうになり――ふと、馬車の横に立っている人物に目を留めました。

 わたくしは目を丸くしました。

「ラケシス! あなたが来たの?」
「そうだよ。良かった、姉さん」

 そう言って妹――ラケシスはこちらに歩み寄り、わたくしの両手をぎゅっと握りました。
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