託宣が下りました。
「……?」

 ふと、疑問が浮かびます。
 魔物退治はこの王都近辺の魔物を狩るだけではありません。外国に行くことだってあります。時には数週間、数ヶ月遠征に出なくてはいけません。

 かたや騎士ヴァイスはここひと月、毎日わたくしのところに来ていました。ということは……

「騎士ヴァイスは、魔物退治に出ておられなかったのですか?」

 すると勇者様は目に見えて慌てました。

「あ……あ。ええと、『もっと重要な用事がある』と言って」
「……もっと重要な用事……?」
「いやでもそれはあいつにとって本当に重要な用事で。いやその」

 しどろもどろになる勇者様。この人は根本的に嘘がつけない人のようです。

「騎士ヴァイス……」

 わたくしは声が低くなるのを自覚していました。

 魔物退治は本当に重要なお役目です。人々は日々、魔物の脅威に怯えて暮らしているのです。だから魔物を退治してくれることに関しては……騎士ヴァイスを純粋に尊敬する思いが本当にありました。

 彼は、この国になくてはならない人だと。
 それが――

 それはわたくしの自意識過剰でしょうか? でも勇者様のわたくしを見て慌てる目。その意味を勘違いできるほど、わたくしは鈍感ではなかった。

「わたくしに会うために、お役目を放り出していた、と……?」
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