かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる

「遊佐専務とは、お付き合いしていません。詳しいことは言えませんが、事情があって専務と水族館に行きました」
 
 この場から早く立ち去りたくて、適当な言葉を並べる。そうでも言わないとこの場が収まりそうにないし、もうこれ以上余計なことに巻き込まれるのは嫌だった。

「二度とこのようなことのないように気をつけます」
 
 本心なのかそうじゃないのか、頭の中がぐちゃぐちゃでもう自分でもよくわからない。

「そうね、わかってくれればいいのよ。別に私はあなたを困らせようとかしたわけじゃなくて、ただ助言をしてあげたかっただけだから」
 
 香野さんはよくわからない御託を並べると最初の態度から一転、親切ぶって乾いたような笑顔をした。周りの女性たちも、ホッとしたような表情を見せる。
 
 でも三人のうちのひとりだけ、今も私に冷たい視線を送っていた。

 あ、この人。確か受付嬢の滝野さんだ。そう言えば彼女は瑞希さんのことが好きだと、風のうわさで聞いたことがある。だからあんな目さげすむようなで私を見ているんだろう。
 
 でももう、そんなことだってどうでもよかった。誰が誰を好きだろうと、私には関係ない。

 今はなにも考えたくない。私のことは、もう放っておいて……。

 心がポキッと折れてしまい、目の前の世界から色がなくなった。





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