かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる

「ごめんなさい。瑞希さんとのことは、なかったことにしてください。もう二度と、私に構わないで……」
 
 これ以上なにかを喋ると涙がこぼれるのがわかって、慌てて言葉を切ると瑞希さんの手を振り払い、階段を駆け下りた。

「葉月!」
「来ないで!」
 
 一気に一階まで駆け下り、いつも向かうはずの駅とは逆方向に走り続ける。会社を出るときくらいまでは瑞希さんが追ってきている気配を感じていたが、走りながら後ろを振り向いても瑞希さんの姿は見えない。
 
 なにか運動をしていたわけじゃない。けれど、足だけは自信があった。それがこんなときに役に立つとは思わなかった。
 
 涙は走っている最中から止まらない。それなのになぜか急に可笑しくなってきて、ふふふと笑いが込み上がる。泣きながら笑うなんて、なんて滑稽なんだろう。
 
 さすがにここまでは追ってはこないだろうと、ゆっくり足を止める。さすがに息も切れ、深い呼吸を繰り返し息を整えた。でも涙はなかなか止まってはくれなくて、ヒックヒックとしゃくり上がったままだ。


< 94 / 139 >

この作品をシェア

pagetop