我が町のヒーローは、オレンジでネイビーで時々グレー
5 自覚した瞬間失恋しました
「あのさ、お前……俺に、惚れるなよ?」

仕事から帰って開口一番、たまたま玄関を通りかかった誠護さんに言われたことがそれだった。

「な、なんでそんなこと!」
「今日お前抱き抱えたとき、顔赤かったから」

そう言ってケラケラ笑う誠護さん。

嘘でしょ、ドキドキしてたのバレてたの!?

「ち、違うよ! あれは、子どもの前ではヒーローみたいでかっこいいって思ったから……」
「へえ、俺のことかっこいいって思ったんだ?」

そう言ってまたケラケラ笑う誠護さん。

「ち、違っ!」
「違わねーだろ、お前、そう言った」
「それは言葉のアヤ!」

「ま、」と一息ついて、誠護さんは続けた。

「惚れられても、俺は恋人は作らねーからな」

そう言って廊下を先まで歩いていく誠護さん。

「あ、」と振り返ったから、また何か言われると身構えると、

「今日の夕飯、ハンバーグな。異論は認めねえ」

そう言ってキッチンへと消えていった。

 *  *  *

園長も交えて3人で夕食をとった後。
いつも先に就寝する園長が席を立つと、誠護さんとビールを飲み交わすのが日課になっていた。
もっとも、彼が当直、非番の日以外であるが。

今日もビールを手にした誠護さん。
私も時折キッチンを借りて、簡単なおつまみを作っていた。
今日はチーズを春巻きの皮で包んで揚げたキャンディつまみだ。

「うんめえ、これ」
「でしょ?」

ひとつまみ、またひとつまみ。
ビール一口ごとに彼の口に消えていくそれを見て、自然に頬がニマニマと緩んでいく。

誠護さんの胃袋を掴んだ!
心の中でガッツポーズを決めてから、はっとした。
なんで私、誠護さんの胃袋掴もうとしてるの!?

「お前、どーした?」
「え!?」

気づけば、誠護さんが私の顔を覗き混んでいる。

「百面相って、お前みたいなヤツのこと言うんだろうな」
「そんな変な顔してた!?」
「そりゃ、もう大変な顔してたぞ?」

誠護さんはまたケラケラ笑った。
< 13 / 24 >

この作品をシェア

pagetop