公然の秘密
それから数日後のことだった。

この日、仕事を終えた柚愛はいつものように自宅へと向かっていた。

その時だった。

「あのジジイ、マジで何なんだよ!」

聞き覚えのある声が聞こえたので思わず視線を向けると、タクシーから1人の客が降りているところだった。

「あっ…」

その顔を見た柚愛は思わず声をあげた。

数日前に自分を助けてくれたあの彼だった。

「尾関さん、気持ちはわかります」

もう1人タクシーから降りてきたのは、スーツ姿の女性だった。

タクシーはブロロ…とエンジン音を響かせて、彼らの前から走り出した。

「あのクソジジイ、俺がプロデュースしたアーティストの名前を全然知らなかったじゃねーかよ!

Meisa(メイサ)のことをIKEA(イケア)って、名前をずーっと間違えてたし!

俺は家具をプロデュースした覚えはねーんだよ!」

彼はグチグチと文句を言っていた。
< 13 / 211 >

この作品をシェア

pagetop