喧嘩最強男子の溺愛

私のスマホから声が聞こえる。私は急いで耳に当て、

「有希! 警察を呼んで! 今、公園にいるの」

するとスマホの向こうから、有希ではない男の人の声が聞こえた。

「お前さ、何やってんだよ。簡単にそいつを信じるなって言っただろ。おっ、無事そうだな。良かった。今行くからそこで待ってろよ・・・」

この声は、島田くん?

有希のスマホから島田くんの声。

しかも、スマホから聞こえる声と同時に公園にも聞こえる同じ声。

「逃げてんじゃねーぞ、てめーら。相当の覚悟があってのことなんだろうなぁ? あ?」

島田くんがスマホを片手に持ち、3人に向かって怒鳴りながら近づいてくる。

「やべぇ、あいつだろ? この前の男。なんでここにいるんだよ」

すると、3人の中の一人が島田くんの正体に気付いて、

「あいつ、島田か? この前は暗くて分からなかったけど、島田だよな?」

「ヤバいぞ、あいつに喧嘩で勝てるヤツいないって噂があるの知ってんだろ?」

「逃げるぞ! バラバラに散れ!」

そう言って3人は走って逃げて行った。

島田くんは3人が逃げていくのを追い掛けず、真っ直ぐに私の方へ向かって歩いてくる。

私の目の前に来て立ち止まった島田くん。

「無事だった? 何もされなかったか?」

その言葉は3人に怒鳴っていた声とは全く違うとても優しい声だった。

ずっと緊張していたものがその言葉で切れた。

私は足の力が抜けて、その場にしゃがみ込んで。

そして、膝を抱えると涙が出てきた。

「帆乃香、なにアイツについて行ってんだよ。心配させんなよ」

島田くんはそう言うと、私と同じようにしゃがみ込み、親が子供にするように私の頭をポンポンと撫でてくれた。

「島田くん、ごめんなさい。私、色々とごめんなさい」

「無事だったから、もういいよ。もう泣くな。お前はいつも泣いてるな」

「島田くん、ありが・・・」

「だからさぁ、島田になってんの。名前。違うでしょ?」

それまで膝に顔を埋めて話していたけど、 ”ありがとう” は島田くんの、いや、郁人の顔をちゃんと見て言わなきゃって思って。

涙を袖でゴシゴシ拭いてから郁人の顔を見て。

「うん。郁人。ありがとう」

私が郁人の目を見てお礼を言ってるのに郁人が私から目を逸らした。

そして、

「別に、いい」

って。鼻の頭を掻きながら、前にも聞いたことのある返事をした。

< 21 / 65 >

この作品をシェア

pagetop