喧嘩最強男子の溺愛

「あのさ、郁人。花火、見たくない?」

「どうだろうね。花火ねぇ・・・」

郁人は花火とかお祭りとかが嫌いなのかな。

人混みが嫌いっていう人いるもんね。

花火大会はあきらめた方がいいのかもね。

私が花火大会の話題を止めて無言になったのを郁人が見て、

「あっはは! 帆乃香。分かりやすいよ! もう、はっきり言いなよ。花火大会に行きたいんでしょ? どうして俺に遠慮するんだよ。いいよ、一緒に花火見に行こう」

「もう! 郁人のバカ! 悲しくなったでしょ」

「ごめん、帆乃香があまりにも可愛くてちょっと意地悪したくなった」

そう言って郁人がお腹を抱えて笑っている。

「なによ、小学生じゃあるまいし。好きな子に意地悪して可愛いのは海人くんの年までだから!」

さっきまでの甘い雰囲気から一変、いつもの郁人がそこにいて。

私はいつもの郁人も好きだなって思う。

「さ、帆乃香。こっち座って。俺が前に使ってた問題集持ってきたからさ。英検の勉強するよ」

「はい?! 郁人、今何て言ったの? 英検って言った?」

「俺さ、奥原先生ともう一つ約束しちゃったんだよね」

「何を? あまり聞きたくないけど、一応聞いとく」

「次の英検で帆乃香を合格させるって約束した」

「やだ! 勝手にそんな約束するのやめてよ」

「だってさ、その約束も込みで勉強合宿の俺の教科変更を認めてもらったんだから、ある意味帆乃香の蒔いた種だからな」

「うーーーっ。郁人、恨むからね」

私は頭を抱えて郁人を睨んだ。

「そんな顔されても怖くないっての」

私は観念して郁人から英検の勉強を教わった。

1時間ほど集中して勉強していたら海人くんが空手教室から帰ってきた。

「ただいま。帆乃香、まだいる?」

「海人くん、お帰りなさい。外は暑かったでしょ。アイスあるから一緒に食べよう」

「うん、食べる!」

私は買ってきたアイスケーキを取り分けた。 

アイスを食べながら私は海人くんに花火大会のことを話した。

「明後日ね、花火大会があるんだよ。屋台もたくさんあるし、楽しいと思うの。海人くんも一緒に行こうよ」

「ホントに?! 行きたい!! 帆乃香、連れて行ってくれるの?」

「もちろんだよ! 私、海人くんと一緒に花火見たいよ」

そんな会話を隣で聞いていた郁人の手が止まって動かなくなった。

「帆乃香、2人じゃなくていいのか?」

「郁人、何言ってるの? 当たり前でしょ。3人で行こうよ。楽しみだな」

「・・・・。」

急に無言になり、何か考えている郁人。

「郁人? どうしたの?」

「ん? なんでもないよ」

なんとなく郁人の態度が変わったような気がした。

「俺、花火大会には行けない・・・」

何の前触れもなく突然郁人が花火大会には行けないと言い出した。

そしてさっきまで笑っていた郁人の顔から笑みが消えた。

「もう外も暗いし、送ってくよ。海人は家で留守番できるよな?」

まだ海人くんと遊んでいないのに、私もう帰らなきゃだめなのかな。

郁人の態度が変わったことなど海人くんには伝わっていなくて。

「僕も帆乃香のこと送りたい」

「だめ。海人はここにいろ。いいな」

郁人が少し強い口調で海人くんに話している。

「海人くんも一緒じゃだめなの? ここに一人にするのも可哀想じゃない」

「じゃ、駅を降りたら親父のところで待ってろよ。それでいいなら連れてく」

「うん、いいよ。父ちゃんのところで待ってるから、僕も行く」

郁人、どうしたの? 私、何か変なことしたかな?

私の家へ向かう時、私は海人くんと手を繋いで歩いた。

いつもなら郁人も私と手を繋いでくれるのに、今夜はそんな素振りもないし、口数も少ない。

郁人、いったいどうしたんだろう。

うちの最寄り駅に着くと、郁人は海人くんをお父さんの所へ連れて行き、郁人だけがお父さんの会社から出てきた。

「帆乃香、お待たせ。あのさ、少し話がしたいんだけど、いいかな? 海人には聞かせられない話だったからさ。変な態度を取ってごめん」

「うん。私も郁人が何か考え込んでいるから聞きたいと思ってた」

私たちはいつもの公園のベンチに並んで座ると、さっきまで繋ごうとしなかった私の手を郁人がそっと握ってくれた。

「帆乃香、あのさ。俺の昔の話をしてもいい? 俺が高校1年の時に付き合ってた人の話」

全く予想すらしていなかった、急な郁人からの言葉にびっくりした。
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