訳あり令嬢は次期公爵様からの溺愛とプロポーズから逃げ出したい
 けれども、ギルフォードが咄嗟にフューレアの手を取ったためそれも敵わない。

「フュー、私の妻になってくれないか。私は生涯きみを愛すると誓う。きみしかいらない。フューのことを愛しているんだ」

 その声はよく響いた。
 ギルフォードはフューレアの手をそっと持ち上げて、口づけを落とした。

 誰かが叫んだ声が聞こえた。どよめきが一気に広がっていく。
 フューレアは頭の中が真っ白になった。

 いま、とても大変なことを言われた気がした。気のせいではない。彼はフューレアに求婚をしたのだ。こんな、公衆の面前で。なんの臆面もなく。

「返事は後日でいいよ。今日は突然にこんなことを言われて驚いただろう? 二人きりの時に正式なやり方で求婚をやり直すよ。だから、その時に」

 空色の瞳の中にフューレアが映っている。優しい、いつもの微笑みにフューレアはぼんやりと頷いた。今すぐにと言われても何が何だか分からなくて整理がつかない。

 ただ言えることは一つだけ。
 フューレアは誰とも結婚をするつもりがないということ。それを今すぐに伝えればいいのに、優しいギルフォードから突然に結婚を打診されて何も考えることが出来なかった。

 せっかくのレースの記憶など何も残っていなかった。

 気が付くとフューレアはナフテハール男爵家の屋敷へと帰ってきていて、両親がものすごく困った顔をしているのを見て、これはどうやら現実に起こったことだと頭を抱えた。

 まったく、どうしてギルフォードはフューレアに求婚をしたのだろう!
 彼はフューレアの事情も何もかも知っているのに!
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