訳あり令嬢は次期公爵様からの溺愛とプロポーズから逃げ出したい
先ほどの新聞記者の台詞が頭の中に蘇る。あれがおそらく世間の本音なのだろう。
ギルフォードはフューレアの本当の身分を知っているけれど、他の人たちは違う。
きっと面白おかしく噂をするし、ギルフォードのことまで記事になるかもしれない。それは嫌だと思った。
「わたしは詳しくは分からないけれど、あなたが訳ありだっていうことくらいは、なんとなく察しているわよ。リューベルン連邦のどこかの家のお嬢様だったんだろうって」
「え……?」
突然に爆弾を投げられて、フューレアは瞳をぱちぱちと瞬いた。
言った側のフランカはあっけらかんとしている。
「あなたね。自分の立ち居振る舞いがどれだけ洗練されているか自覚あるのかしら。あんなもの、修道院から貰われてきたそのへんの庶民が一長一短で身に付くものじゃないわよ。大人とも臆さずに話をするし、妙に落ち着いているし。少なくとも街の孤児って風情ではなかったわ。お父様もあれで顔が広いわけだし。突然にリューベルン人の子供を連れて帰ってきて、慈善活動の一環で養女をもらった、なんて言い出したから、ああそうですか、なんて頷いたけど」
「そ、れは……ええと……」
フューレアはその場で固まった。正直まったく自覚がなかった。それもそのはずだ。フューレアは幼いころから厳しく躾けられてきた生粋のお姫様なのだ。
周りにいるのも王族ばかりでその振る舞いが洗練されているのは当然のこと。叔父は大公で、その叔父に可愛がられて育ったためとっても偉い人と話すことにも慣れている。
「本人が言いたくないことを無理に暴くことはしないけれど。今のあなたはわたしの妹なわけだし」
「あ……はい。ありがとう」
「べつにね。外野が騒ごうと、あなたがギルフォード様と結婚をしたかったらしたらいいじゃない。そいつら全員あなたの人生に関わってはこないでしょ。そんなモブ野郎たちに遠慮をして、自分の幸せを逃したら駄目よ。もっと幸せになることにどん欲になりなさい」
「う、うん」
モブ野郎って何だろう。フランカも時々スラングを使うので微妙に会話が理解できないことがある。それでも、フューレアはどこかすっきりとした。彼女の歯に衣着せぬ言い方は聞いていてとても気持ちがいいからだ。その彼女がフューレアを応援してくれているのが嬉しい。
「で、あなたはギルフォード様をお兄様としか見られないの? だったら結婚できないっていうのも致し方なしってところだけど」
「う……うーん……正直、わからないの」
ギルフォードはこの国に来てからずっと側にいてくれた人。フューレアのことをいつも気に掛けてくれていて、無条件で味方をしてくれて甘やかしてくれて。
だから彼の側にいると安心をする。旅の途中、何度も彼と同じ風景を見たいと考えた。夜、寝台の中でギルフォードを思い出すと無性に寂しくなって、そういうときは手紙をたくさん書きたくなった。
彼と感動を共有したいと、書いても書いても物足りなくて。だから、本当は港までギルフォードが迎えに来てくれた時、とても嬉しかった。
これは一体どんな感情なのだろう。
過去の様々な出来事を頭の中で思い浮かべては顔を赤くしたりほのかに微笑んだりする妹をフランカはじっと観察をした。
「なるほどね」
「どうしたの?」
「ううん。まあ、ギルフォード様の頑張り次第ってところかな、と」
「頑張り?」
「フューは純粋で可愛いわね。わたしがあなたと同じ年の頃ってどうだったかしら。もっと擦れていたような気がしなくもないけれど」
「お姉様はいまでもとても優しいし、わたし、お姉様のこと大好きよ」
「そう? ありがとう」
「わたし……ずっと一人っ子だったから。ナフテハール男爵家に貰われてきて、兄姉がたくさんできて嬉しかったの。ちょっと年は離れているけれど、みんな優しくしてくれたから」
「んもう。可愛いわね。わたしだって妹が出来て嬉しかったのよ。可愛いドレスを選んであげられるし。一緒にお出かけできるし。また遊びに来なさい。愚痴でもなんでも聞いてあげるから」
「ん、ありがとう」
えへへと笑うとフランカも同じように笑み崩れた。姉妹の絆を再確認するような会話に二人で照れて。一人で異国の地へとやってきたけれど、新しい土地でフューレアを家族と呼んでくれる優しい人に出会えた。気恥ずかしさを紛らわせるようにその後も二人で会話に華を咲かせた。
ギルフォードはフューレアの本当の身分を知っているけれど、他の人たちは違う。
きっと面白おかしく噂をするし、ギルフォードのことまで記事になるかもしれない。それは嫌だと思った。
「わたしは詳しくは分からないけれど、あなたが訳ありだっていうことくらいは、なんとなく察しているわよ。リューベルン連邦のどこかの家のお嬢様だったんだろうって」
「え……?」
突然に爆弾を投げられて、フューレアは瞳をぱちぱちと瞬いた。
言った側のフランカはあっけらかんとしている。
「あなたね。自分の立ち居振る舞いがどれだけ洗練されているか自覚あるのかしら。あんなもの、修道院から貰われてきたそのへんの庶民が一長一短で身に付くものじゃないわよ。大人とも臆さずに話をするし、妙に落ち着いているし。少なくとも街の孤児って風情ではなかったわ。お父様もあれで顔が広いわけだし。突然にリューベルン人の子供を連れて帰ってきて、慈善活動の一環で養女をもらった、なんて言い出したから、ああそうですか、なんて頷いたけど」
「そ、れは……ええと……」
フューレアはその場で固まった。正直まったく自覚がなかった。それもそのはずだ。フューレアは幼いころから厳しく躾けられてきた生粋のお姫様なのだ。
周りにいるのも王族ばかりでその振る舞いが洗練されているのは当然のこと。叔父は大公で、その叔父に可愛がられて育ったためとっても偉い人と話すことにも慣れている。
「本人が言いたくないことを無理に暴くことはしないけれど。今のあなたはわたしの妹なわけだし」
「あ……はい。ありがとう」
「べつにね。外野が騒ごうと、あなたがギルフォード様と結婚をしたかったらしたらいいじゃない。そいつら全員あなたの人生に関わってはこないでしょ。そんなモブ野郎たちに遠慮をして、自分の幸せを逃したら駄目よ。もっと幸せになることにどん欲になりなさい」
「う、うん」
モブ野郎って何だろう。フランカも時々スラングを使うので微妙に会話が理解できないことがある。それでも、フューレアはどこかすっきりとした。彼女の歯に衣着せぬ言い方は聞いていてとても気持ちがいいからだ。その彼女がフューレアを応援してくれているのが嬉しい。
「で、あなたはギルフォード様をお兄様としか見られないの? だったら結婚できないっていうのも致し方なしってところだけど」
「う……うーん……正直、わからないの」
ギルフォードはこの国に来てからずっと側にいてくれた人。フューレアのことをいつも気に掛けてくれていて、無条件で味方をしてくれて甘やかしてくれて。
だから彼の側にいると安心をする。旅の途中、何度も彼と同じ風景を見たいと考えた。夜、寝台の中でギルフォードを思い出すと無性に寂しくなって、そういうときは手紙をたくさん書きたくなった。
彼と感動を共有したいと、書いても書いても物足りなくて。だから、本当は港までギルフォードが迎えに来てくれた時、とても嬉しかった。
これは一体どんな感情なのだろう。
過去の様々な出来事を頭の中で思い浮かべては顔を赤くしたりほのかに微笑んだりする妹をフランカはじっと観察をした。
「なるほどね」
「どうしたの?」
「ううん。まあ、ギルフォード様の頑張り次第ってところかな、と」
「頑張り?」
「フューは純粋で可愛いわね。わたしがあなたと同じ年の頃ってどうだったかしら。もっと擦れていたような気がしなくもないけれど」
「お姉様はいまでもとても優しいし、わたし、お姉様のこと大好きよ」
「そう? ありがとう」
「わたし……ずっと一人っ子だったから。ナフテハール男爵家に貰われてきて、兄姉がたくさんできて嬉しかったの。ちょっと年は離れているけれど、みんな優しくしてくれたから」
「んもう。可愛いわね。わたしだって妹が出来て嬉しかったのよ。可愛いドレスを選んであげられるし。一緒にお出かけできるし。また遊びに来なさい。愚痴でもなんでも聞いてあげるから」
「ん、ありがとう」
えへへと笑うとフランカも同じように笑み崩れた。姉妹の絆を再確認するような会話に二人で照れて。一人で異国の地へとやってきたけれど、新しい土地でフューレアを家族と呼んでくれる優しい人に出会えた。気恥ずかしさを紛らわせるようにその後も二人で会話に華を咲かせた。