訳あり令嬢は次期公爵様からの溺愛とプロポーズから逃げ出したい
レーヴェン公爵から口添えをされていたのか、ロルテーム国王は特に無茶な交換条件をつけることもなく、フューレアを自国で保護することを了承した。
つくづく、フューレアは色々な人に守られて生きているのだと実感した。
レーヴェン公爵の尽力が無ければこうもスムーズにことは進まなかった。
「はじめまして。リューベルン連邦選定皇帝から遣われたカール・キールシュと言います」
部屋の中に入ってきた数人の使者の内の一人が口を開いた。
レーヴェン公爵よりも少し若いくらいの、壮年の男性だ。いぶし銀の髪に薄紫色の瞳をした、リューベニア民族らしい外見を持っている。
使者たちはフューレアの前の席に座った。
彼らはフューレアの顔を見て、納得したように小さく頷いた。きっとフューレアの顔立ちが彼らが服従をする王族と似通っているのだろう。エデュアルトの話は誇張ではなかったのだ。
「たしかに、あなたがリューベルン連邦の社交界に姿を現したらその場は騒然とするでしょうね」
カールが代表して話を切り出した。
フューレアの身を証明する証拠はすでに提出してあった。それらを審議し、またフィウレオ自身が動いたこともあって選定皇帝は己の懐刀ともいえるカールを遣わした。彼とて真偽についてはほぼ分かっていたはずだが、それでもフューレアと対面をして改めて大公家の血を引く姫だと強く認識をしたのだろう。
「わたしの顔は、そんなにも各国の王族と近しいのでしょうか」
「私に敬語は結構ですよ」
そう前置きをしつつカールはフューレアと血が近しい大公家や王家の名前をいくつか挙げた。雰囲気が誰それに似ている、目元は誰と近しいなど、だ。そう聞かされてもどこか他人事のように聞こえた。リューベルン連邦の王族はフューレアにとって、とっくに遠い存在になっていた。
「それで、わたしの願いは聞き届けてくれますか?」
フューレアはあらかじめ自分の望みを文面にしたためて送っていた。今日はその返事を持ってきているはずだった。
「ええ。皇帝陛下としても、これ以上余計な面倒の種を抱えたくはない。あなたが正式に名乗りを上げればこれ以上フィウアレア・モルテゲルニーの偽物が増えることはないでしょうしね。正直、六年前に相談をしてくれればよかったのに、と愚痴っておられましたよ」
そこは冗談として笑うところだろうか。
カールは特に表情も変えずに淡々と話すものだから、対応に困ってしまう。
「さすがにそれは無理でしょう。当時、モルテゲルニー公爵閣下は様々な思惑を持った人々に取り囲まれていた」
レーヴェン公爵が口をはさむと、カールは「それはそうでした」と小さく頷いた。
結局あのときの最善はフューレアを秘密裏に逃がすことだったのだ。
選定皇帝に接触を図って、フューレアが彼の手駒にされてしまうことをも、フィウレオは危惧していた。彼は娘をリューベルン連邦から解放することを望んでいた。それが、彼の妻の願いでもあったという。フューレアは今回初めて聞かされたのだが、母ギゼルフィフィは異国に憧れていたのだという。
それを聞いたとき、フューレアは何か腑に落ちた気がした。
外国で過ごした二年間。
あの宝物の日々は、母の願いでもあったのだ。
「皇帝陛下としても、名前を取り戻したフィウアレア元姫君がレーヴェン公爵家に嫁入りされることを賛成しております。これで独身となると、面倒な事案も発生しましょうが、異国人と結婚すれば純血主義者たちもおいそれとあなた様の子供を担ぎ上げるようなことはしませんでしょうから」
つくづく、フューレアは色々な人に守られて生きているのだと実感した。
レーヴェン公爵の尽力が無ければこうもスムーズにことは進まなかった。
「はじめまして。リューベルン連邦選定皇帝から遣われたカール・キールシュと言います」
部屋の中に入ってきた数人の使者の内の一人が口を開いた。
レーヴェン公爵よりも少し若いくらいの、壮年の男性だ。いぶし銀の髪に薄紫色の瞳をした、リューベニア民族らしい外見を持っている。
使者たちはフューレアの前の席に座った。
彼らはフューレアの顔を見て、納得したように小さく頷いた。きっとフューレアの顔立ちが彼らが服従をする王族と似通っているのだろう。エデュアルトの話は誇張ではなかったのだ。
「たしかに、あなたがリューベルン連邦の社交界に姿を現したらその場は騒然とするでしょうね」
カールが代表して話を切り出した。
フューレアの身を証明する証拠はすでに提出してあった。それらを審議し、またフィウレオ自身が動いたこともあって選定皇帝は己の懐刀ともいえるカールを遣わした。彼とて真偽についてはほぼ分かっていたはずだが、それでもフューレアと対面をして改めて大公家の血を引く姫だと強く認識をしたのだろう。
「わたしの顔は、そんなにも各国の王族と近しいのでしょうか」
「私に敬語は結構ですよ」
そう前置きをしつつカールはフューレアと血が近しい大公家や王家の名前をいくつか挙げた。雰囲気が誰それに似ている、目元は誰と近しいなど、だ。そう聞かされてもどこか他人事のように聞こえた。リューベルン連邦の王族はフューレアにとって、とっくに遠い存在になっていた。
「それで、わたしの願いは聞き届けてくれますか?」
フューレアはあらかじめ自分の望みを文面にしたためて送っていた。今日はその返事を持ってきているはずだった。
「ええ。皇帝陛下としても、これ以上余計な面倒の種を抱えたくはない。あなたが正式に名乗りを上げればこれ以上フィウアレア・モルテゲルニーの偽物が増えることはないでしょうしね。正直、六年前に相談をしてくれればよかったのに、と愚痴っておられましたよ」
そこは冗談として笑うところだろうか。
カールは特に表情も変えずに淡々と話すものだから、対応に困ってしまう。
「さすがにそれは無理でしょう。当時、モルテゲルニー公爵閣下は様々な思惑を持った人々に取り囲まれていた」
レーヴェン公爵が口をはさむと、カールは「それはそうでした」と小さく頷いた。
結局あのときの最善はフューレアを秘密裏に逃がすことだったのだ。
選定皇帝に接触を図って、フューレアが彼の手駒にされてしまうことをも、フィウレオは危惧していた。彼は娘をリューベルン連邦から解放することを望んでいた。それが、彼の妻の願いでもあったという。フューレアは今回初めて聞かされたのだが、母ギゼルフィフィは異国に憧れていたのだという。
それを聞いたとき、フューレアは何か腑に落ちた気がした。
外国で過ごした二年間。
あの宝物の日々は、母の願いでもあったのだ。
「皇帝陛下としても、名前を取り戻したフィウアレア元姫君がレーヴェン公爵家に嫁入りされることを賛成しております。これで独身となると、面倒な事案も発生しましょうが、異国人と結婚すれば純血主義者たちもおいそれとあなた様の子供を担ぎ上げるようなことはしませんでしょうから」