訳あり令嬢は次期公爵様からの溺愛とプロポーズから逃げ出したい
 会談は始終平和裏に進んだ。
 フューレアの前には選定皇帝側が作成をした文書が置かれている。

 今後のフューレアの処遇に関する誓約書で、双方合意の元署名をすることになっている。レーヴェン公爵がこのあと書かれた文書がフューレアにとって不利になる内容を含んでいないかどうか精査をして、後日改めて署名をする予定だ。

「もう一つ、懸念事項がある」

 レーヴェン公爵が皇帝の使者に日フューレアの前に現れたエデュアルトについて語り始めた。調べたところ、確かにリューベルン連邦からの旅行者で似たような背格好の人物がロームに滞在をしていた。
 協力者がいるのか尻尾を掴ませないとフューレアは聞き及んでいた。フューレアの前に現れたのはヴィヴィアン・ローステッドを巻き込んでのことで、現在ロルテーム社交界から干されているヴィヴィアンにエデュアルトが上手いこと取入ったようなのだ。

 一体ヴィヴィアンに何をしたのだ、とギルフォードを問い詰めると、特にこれといったことはしていない。抗議をしただけだと返された。その抗議の内容が気になるのだが、ギルフォードは話してくれなかった。

「フィウアレア元姫君がエデュアルト・ヘームスト公爵に取り込まれなくて安堵しました」
「わたしは、連邦には一切立ち入ることはしないわ」

 フューレアは新しい土地で生きていくと決めたから。
 きっと、連邦とは距離を置いたほうがお互いのためなのだ。正直に言うと、一度は母の墓前に華を添えたい。大きくなったこの目で、生まれた屋敷や故郷の宮殿を見て回りたかった。

 けれどもフューレアが彼の地を訪れるといらぬ騒動を巻き起こす可能性がある。それなら訪れないほうがいいのだ。
 一度目の会談はほどなくして終了をして、フューレアは己の肩がずいぶんと凝っていることを自覚した。自分で思う以上に気を張っていたのだ。

 リューベルン連邦の選定皇帝は随分と話の分かる人物らしい。それがフューレアの第一の感想だった。彼は不毛な血族婚に嫌気を刺しているのだという。己の息子に他国の王族を娶らせたのもその一環で、けれどもそのことが連邦内の保守派の反発を招いている。
 フューレアも今回ロルテーム人と結婚をすると告げたから、そのことも皇帝にとっては安心材料になったとのことだった。

 保守派とそして純血主義者らはなによりも異民族間の結婚を厭うからだ。
 きっとこの先の未来は、もっともっと人の流れが活発になるだろう。
 実際、列車の登場で人と物の流れが大きく変わりつつある。まだロルテームでは導入をされていないが、隣国でフューレアは列車に乗車した。造船技術も日々発達しており、技術者たちは他社には負けまいと知恵と技術を出し合っている。時代は大きく変わりつつある。

 帰りの馬車の中で、フューレアはある考えを思いついた。

「ねえ、ギルフォード。わたし、考えたのだけれど」
「なにを考えたの?」
「もしかしたら、あなたに迷惑をかけてしまうかも」

 フューレアは前置きをして、ギルフォードの耳元へ顔を近づけた。
 内緒の話を聞かされたギルフォードはゆっくりとフューレアに顔を近づけた。
 目じりに唇を寄せられて、その甘さにきゅんと胸が疼いた。

「私はいつでもきみの味方だよ」
「ありがとう、ギルフォード」

 理解のある婚約者に、フューレアはふわりと微笑みを向けた。

 * * *

 ハレ湖沿いの公園は密会にはおあつらえ向きだ。市民の憩いの場でもあるそこは敷地が広く、大きな木も多く植わっている。上流階級のみに解放されている公園とは違い、誰でも入ることが出来るため、敬遠する金持ちも一定数存在する。
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