訳あり令嬢は次期公爵様からの溺愛とプロポーズから逃げ出したい
強い薬は、彼女から徐々に理性を取り払っていく。何度も飲むうちにヴィヴィアンはゆっくりと薬への依存度を高めていっている。
「そうだね。飲むといいよ」
エデュアルトは水筒を取り出した。ヴィヴィアンは水筒を受け取ると目を輝かせ待ちきれないとばかりに瓶を空け薬を飲みこんだ。
「そういえば、ギルフォード・レーヴェンが結婚式を挙げる」
「結婚式。まあ、素敵。わたくし、いよいよ花嫁になれるのね」
「もちろんだ。美しい花嫁になるだろう」
「でも、ドレスがないわ。お父様ったら、ドレスを用意してくださらないの」
「心配いらないよ。私が準備をしてあげよう」
「本当? どんなドレスがいいかしら。フラデニアの人気店がいいわ。だってギルフォードの隣に立つんだもの。とびきり美しくならないと」
ヴィヴィアンがくるくると回り出す。軽やかにステップを踏む様に、ここがハレ湖ではなくどこかのお屋敷の大広間だというように。華やかな笑みを浮かべてふわふわと回り、歩く。
エデュアルトは笑みを深めた。
女は恋をすると盲目になる。自分の都合のいい言葉しか耳に入れなくなる。
ヴィヴィアンの中で、ギルフォードが結婚する相手は彼女自身だと信じて疑わない。エデュアルトがそう囁いたからだ。
ロルテーム人のギルフォードには同じくロルテーム人のヴィヴィアンの方がお似合いだ。
フィウアレアは駄目だ。彼女はモルテゲルニー家の血を引く高貴なる姫で、その血筋は守られなければならない。
正当なる血の継承者の夫には、同じく正当なる血筋の人間こそが相応しい。アウスバーグ王家の血を引くエデュアルトを結婚をすることがフィウアレアにとっての幸せでもあるのだ。
彼女は少し外国生活が長すぎた。すっかりこの国に染まってしまっている。母国語であるリューベルン語を忘れてしまったなど言語道断だ。
国へ連れ帰ったらしっかりと母国語を矯正し直さなければならない。
舞踏会でちらりと見た彼女の立ち居振る舞いは完ぺきだった。
さすがはよく教育を施されたモルテゲルニー家の姫だと、そこは感心をした。
エデュアルトの最大の目的はフィウアレアとの間に男児をもうけること。
息子が生まれれば正当なるゲルニー公国の血を引く後継者になりえる。そのためにも現在の皇帝を出し抜き、フィウアレアを国へ連れ帰らねばならない。
エデュアルトはとろりとした瞳で幸せな結婚式を夢想するヴィヴィアンに語りかける。
「いいかい、ヴィヴィアン。秘密の結婚式だ。きみも知っての通り、ナフテハール男爵家はお金に物を言わせてレーヴェン公爵家を言いなりにしようとしている」
「ええ」
「伝統ある公爵家に相応しい花嫁は伝統的な貴族の家の娘だ」
「その通りだわ」
「だから、男爵を出し抜くためにもその時まで、秘密にしているんだよ」
幼子に言い聞かせるように、ゆっくりと目を見て話すとヴィヴィアンは真面目な顔をして大きく頷いた。
人は己の信じたいものしか信じない。
本当にこの娘は扱いやすい。
「さあ、もう行くんだ。また連絡をするよ」
「エデュアルト様。ご協力感謝しますわ。わたくしとギルフォードの結婚式、楽しみにしていらしてね」
愛らしく膝を曲げて挨拶をしたヴィヴィアンは、確かに貴族の娘としては合格点だろうが、エデュアルトにしてみればリューベニア民族でない時点でどうでもいい存在だ。その上あの女はフィウアレアを侮辱した。
表向きリューベルン連邦内の修道院から養女としてもらわれてきたというフィウアレアがギルフォードと婚約をしたというニュースは一部の女性たちから反感を買った。
社交界の人気者であったギルフォードの相手が貰われ子と知り、その出自を貶める人間が現れた。それがヴィヴィアンだった。エデュアルトがローム入りをしたときすでに二人は婚約を発表した後だった。
出遅れてしまったエデュアルトはどうにか付け込む隙を探っていて、そんなときにヴィヴィアンが騒ぎを起こした。
己と同じ血が流れるフィウアレアを侮辱したこの女に対しては思うところが多くある。本来なら即刻処刑してやるところだが、侯爵家の娘を一人処理するには時間と手間と金がかかる。今目立つわけにはいかないため、役に立ってもらうことにした。
「さて、ギルフォード。私の妻を返してもらうよ」
エデュアルトはくつくつと笑った。
あの男にフィウアレアはもったいない。あれの価値を分かるものが手にするのが本来あるべき姿なのだ。
「そうだね。飲むといいよ」
エデュアルトは水筒を取り出した。ヴィヴィアンは水筒を受け取ると目を輝かせ待ちきれないとばかりに瓶を空け薬を飲みこんだ。
「そういえば、ギルフォード・レーヴェンが結婚式を挙げる」
「結婚式。まあ、素敵。わたくし、いよいよ花嫁になれるのね」
「もちろんだ。美しい花嫁になるだろう」
「でも、ドレスがないわ。お父様ったら、ドレスを用意してくださらないの」
「心配いらないよ。私が準備をしてあげよう」
「本当? どんなドレスがいいかしら。フラデニアの人気店がいいわ。だってギルフォードの隣に立つんだもの。とびきり美しくならないと」
ヴィヴィアンがくるくると回り出す。軽やかにステップを踏む様に、ここがハレ湖ではなくどこかのお屋敷の大広間だというように。華やかな笑みを浮かべてふわふわと回り、歩く。
エデュアルトは笑みを深めた。
女は恋をすると盲目になる。自分の都合のいい言葉しか耳に入れなくなる。
ヴィヴィアンの中で、ギルフォードが結婚する相手は彼女自身だと信じて疑わない。エデュアルトがそう囁いたからだ。
ロルテーム人のギルフォードには同じくロルテーム人のヴィヴィアンの方がお似合いだ。
フィウアレアは駄目だ。彼女はモルテゲルニー家の血を引く高貴なる姫で、その血筋は守られなければならない。
正当なる血の継承者の夫には、同じく正当なる血筋の人間こそが相応しい。アウスバーグ王家の血を引くエデュアルトを結婚をすることがフィウアレアにとっての幸せでもあるのだ。
彼女は少し外国生活が長すぎた。すっかりこの国に染まってしまっている。母国語であるリューベルン語を忘れてしまったなど言語道断だ。
国へ連れ帰ったらしっかりと母国語を矯正し直さなければならない。
舞踏会でちらりと見た彼女の立ち居振る舞いは完ぺきだった。
さすがはよく教育を施されたモルテゲルニー家の姫だと、そこは感心をした。
エデュアルトの最大の目的はフィウアレアとの間に男児をもうけること。
息子が生まれれば正当なるゲルニー公国の血を引く後継者になりえる。そのためにも現在の皇帝を出し抜き、フィウアレアを国へ連れ帰らねばならない。
エデュアルトはとろりとした瞳で幸せな結婚式を夢想するヴィヴィアンに語りかける。
「いいかい、ヴィヴィアン。秘密の結婚式だ。きみも知っての通り、ナフテハール男爵家はお金に物を言わせてレーヴェン公爵家を言いなりにしようとしている」
「ええ」
「伝統ある公爵家に相応しい花嫁は伝統的な貴族の家の娘だ」
「その通りだわ」
「だから、男爵を出し抜くためにもその時まで、秘密にしているんだよ」
幼子に言い聞かせるように、ゆっくりと目を見て話すとヴィヴィアンは真面目な顔をして大きく頷いた。
人は己の信じたいものしか信じない。
本当にこの娘は扱いやすい。
「さあ、もう行くんだ。また連絡をするよ」
「エデュアルト様。ご協力感謝しますわ。わたくしとギルフォードの結婚式、楽しみにしていらしてね」
愛らしく膝を曲げて挨拶をしたヴィヴィアンは、確かに貴族の娘としては合格点だろうが、エデュアルトにしてみればリューベニア民族でない時点でどうでもいい存在だ。その上あの女はフィウアレアを侮辱した。
表向きリューベルン連邦内の修道院から養女としてもらわれてきたというフィウアレアがギルフォードと婚約をしたというニュースは一部の女性たちから反感を買った。
社交界の人気者であったギルフォードの相手が貰われ子と知り、その出自を貶める人間が現れた。それがヴィヴィアンだった。エデュアルトがローム入りをしたときすでに二人は婚約を発表した後だった。
出遅れてしまったエデュアルトはどうにか付け込む隙を探っていて、そんなときにヴィヴィアンが騒ぎを起こした。
己と同じ血が流れるフィウアレアを侮辱したこの女に対しては思うところが多くある。本来なら即刻処刑してやるところだが、侯爵家の娘を一人処理するには時間と手間と金がかかる。今目立つわけにはいかないため、役に立ってもらうことにした。
「さて、ギルフォード。私の妻を返してもらうよ」
エデュアルトはくつくつと笑った。
あの男にフィウアレアはもったいない。あれの価値を分かるものが手にするのが本来あるべき姿なのだ。