訳あり令嬢は次期公爵様からの溺愛とプロポーズから逃げ出したい
麗しのギルフォード・レーヴェンの結婚相手が実はやんごとなきお姫様だったという事実は大変な騒ぎとなってロルテーム社交界を駆け巡った。
「たしかにお姫様だったのは驚きだったけど。フューレア様、立ち居振る舞いが洗練されすぎてて、色々と腑に落ちたわ」
「……明るいお元気娘って印象しかなかった」
アマッドが適当すぎるだけだ。
「そうか。物怖じしないところは経験のなせる業か」
「どうかしら。あれは天性な気がしないでもないけれど」
何しろ、十三歳で公国を秘密裏に脱出し、ナフテハール男爵家の養女となった半生を手記にして新聞で連載を始めてしまったのだ。
本人曰く、これくらい堂々としていたほうが逆に政治利用されなと思って、とのこと。振り切り過ぎだと思ったが連載中の手記は面白くエルセも愛読している。
ちなみに現在、連載している新聞は部数を伸ばしまくっている。先ほどの日刊ロームや他の新聞社はよほど悔しいのか、少しでもフューレアの関係者から話を聞こうと攻勢をかけまくっているのだが、関係者が社会的地位のある人間ばかりで今のところうまくいっていない。
現在一躍時の人となったフューレアは煩わしい外部との接触を断つために屋敷に引き籠って原稿の続きを書いたり本を読んだりしている。
エルセの旅立ちの日も近い。
できればロルテームを離れる前にたくさん会って話しておきたい。
違う国に住むことになっても大切な友人であることには変わりはない。それでもやはり寂しいのだ。
その日、エルセとフューレアはたくさん話をした。
一足先に人妻になったフューレアはエルセにとあるアドバイスをした。
曰く、今からでも遅くないから体力をつけておきなさい、とのこと。やはり侯爵家の嫁というのはやることがたくさんあって大変らしい。エルセが「大変ね」としみじみと言うと、フューレアが「絶対にエルセだって大変な目にあうから!」と強く言われた。
* * *
夢中になって執筆をしていると、いつの間にかギルフォードが部屋へと入ってきていた。
「フュー、少しは休まないと。体を壊してしまうよ」
机の上には清書の原稿の他にも書き損じの紙が少し乱雑に散らばってる。
「うーん……あと、少しだけ」
フューレアが顔を上に上げると、口付けが降ってきた。
「その台詞、昨日も聞いたよ。根を詰めたら駄目。休憩」
「いまノッているの。あと、ちょっとだけ。切りのいいところまで」
むぅっと唇を尖らせるとギルフォードは「仕方がないな」とフューレアの頭をやさしく撫でてから退散をした。
手のひらの温もりがじわじわと頭の中へ染み込んでいく。
たしかに最近ちょっと頑張り過ぎた。エルセが旅立ってしまい、とても寂しくて原稿に逃避をしていたのは否めない。
季節は秋へと移っていた。
今春にロルテームに帰国をして、それから。
フューレアは原稿に目を落とした。書きたいところまで書いてしまわないと。
カリカリとペンを走らせる。昨日頭の中で考えをまとめたところまで書いてしまって、フューレアはうーんと伸びをした。首を横に曲げると音がした。かなり肩が凝っている。
フューレアが夫婦の居間へ行くと、ギルフォードが本を読んでいた。
「終わった?」
「ええ」
「ずっと放っておかれたから寂しかった」
「ずっとじゃないと思うけど」
「おいで」
ギルフォードが微笑みフューレアに向けて両手を広げた。
フューレアは胸がいっぱいになってその中に飛び込む。夫の腕の中は心が安らぐ大好きな場所。ギルフォードの膝の上にちょこんと座ると、ぎゅっと抱きしめられた。
「たしかにお姫様だったのは驚きだったけど。フューレア様、立ち居振る舞いが洗練されすぎてて、色々と腑に落ちたわ」
「……明るいお元気娘って印象しかなかった」
アマッドが適当すぎるだけだ。
「そうか。物怖じしないところは経験のなせる業か」
「どうかしら。あれは天性な気がしないでもないけれど」
何しろ、十三歳で公国を秘密裏に脱出し、ナフテハール男爵家の養女となった半生を手記にして新聞で連載を始めてしまったのだ。
本人曰く、これくらい堂々としていたほうが逆に政治利用されなと思って、とのこと。振り切り過ぎだと思ったが連載中の手記は面白くエルセも愛読している。
ちなみに現在、連載している新聞は部数を伸ばしまくっている。先ほどの日刊ロームや他の新聞社はよほど悔しいのか、少しでもフューレアの関係者から話を聞こうと攻勢をかけまくっているのだが、関係者が社会的地位のある人間ばかりで今のところうまくいっていない。
現在一躍時の人となったフューレアは煩わしい外部との接触を断つために屋敷に引き籠って原稿の続きを書いたり本を読んだりしている。
エルセの旅立ちの日も近い。
できればロルテームを離れる前にたくさん会って話しておきたい。
違う国に住むことになっても大切な友人であることには変わりはない。それでもやはり寂しいのだ。
その日、エルセとフューレアはたくさん話をした。
一足先に人妻になったフューレアはエルセにとあるアドバイスをした。
曰く、今からでも遅くないから体力をつけておきなさい、とのこと。やはり侯爵家の嫁というのはやることがたくさんあって大変らしい。エルセが「大変ね」としみじみと言うと、フューレアが「絶対にエルセだって大変な目にあうから!」と強く言われた。
* * *
夢中になって執筆をしていると、いつの間にかギルフォードが部屋へと入ってきていた。
「フュー、少しは休まないと。体を壊してしまうよ」
机の上には清書の原稿の他にも書き損じの紙が少し乱雑に散らばってる。
「うーん……あと、少しだけ」
フューレアが顔を上に上げると、口付けが降ってきた。
「その台詞、昨日も聞いたよ。根を詰めたら駄目。休憩」
「いまノッているの。あと、ちょっとだけ。切りのいいところまで」
むぅっと唇を尖らせるとギルフォードは「仕方がないな」とフューレアの頭をやさしく撫でてから退散をした。
手のひらの温もりがじわじわと頭の中へ染み込んでいく。
たしかに最近ちょっと頑張り過ぎた。エルセが旅立ってしまい、とても寂しくて原稿に逃避をしていたのは否めない。
季節は秋へと移っていた。
今春にロルテームに帰国をして、それから。
フューレアは原稿に目を落とした。書きたいところまで書いてしまわないと。
カリカリとペンを走らせる。昨日頭の中で考えをまとめたところまで書いてしまって、フューレアはうーんと伸びをした。首を横に曲げると音がした。かなり肩が凝っている。
フューレアが夫婦の居間へ行くと、ギルフォードが本を読んでいた。
「終わった?」
「ええ」
「ずっと放っておかれたから寂しかった」
「ずっとじゃないと思うけど」
「おいで」
ギルフォードが微笑みフューレアに向けて両手を広げた。
フューレアは胸がいっぱいになってその中に飛び込む。夫の腕の中は心が安らぐ大好きな場所。ギルフォードの膝の上にちょこんと座ると、ぎゅっと抱きしめられた。