訳あり令嬢は次期公爵様からの溺愛とプロポーズから逃げ出したい
最初はとってもドキドキして心臓が壊れてしまうかと思ったのに、今はドキドキもするけれど安心感の方が強い。ここが変わらずフューレアの居場所だとわかるから、息をするのがとても楽な場所なのだ。
「わたしの手記ね、好調なのですって。このままでいくと、旅行記もそのまま連載できそうよ」
そのことを聞いたのはつい最近。元姫君の冒険譚に興味津々らしく、連載の評判もよいためこのまま十七歳になって旅立ったあとのことまで書いてもいいということになった。
とはいえ、二年分を書くと中だるみが生じるからとか言って、厳選エピソードのみの連載になりそうだが。
「おめでとう。夢がかなったね」
「ありがとう。これくらい派手にすれば、まかり間違ってもリューベルン連邦の王族たちに利用されないと思うのよ」
どうせ居場所を公表するのなら派手に目立ってしまおうと思った。
開き直りとも言うけれど、国を出て元気に暮らしていますと故郷の人たちにも知ってもらいたかった。悲劇の元姫君とは思ってほしくなかったのだ。
「そんなこと、私が絶対にさせない」
「たぶん大丈夫。リューベルン連邦の皇帝陛下ときちんと約束を交わしたわけだし。わたしはもうフューレア・レーヴェンだもの」
正式にフィウアレア・モルテゲルニーとしてロルテームへ亡命を果たしたわけだけれど、フューレアという名前にも愛着ある。だからこれからもフューレアという名前を使うことにした。
フューレアの発表した手記は大反響で、身辺も色々と変化した。
というのも、元姫君と分かった途端にフューレアと仲良くしようとする人々が大挙としてレーヴェン公爵家に繋ぎをとってきたからだ。生まれも知れぬ養女が次期公爵夫人などと、とフューレアを軽視していた人々が手のひらを返すさまはなかなかにうすら寒いものがあった。
貴族の妻としてのお付き合いも今後の仕事の一つだが、フューレアは物書き業が忙しくて屋敷に籠る日々を過ごしている。
「キールシュ氏からも手紙が来たよ。どうやらエデュアルト・ヘームストはしばらくの間牢に入るみたいだよ」
「そう」
ロルテームでそれなりに暴れたエデュアルトはカールによって引っ立てられ、リューベルン連邦内で刑に処されたとのことだ。
「そういえば、旅行記のあとは、ギルフォードとのロマンスをたっぷり書いてください、なんて言われてけれど……これはわたしたち二人だけの秘密ってことでお断りしようと思うの」
さすがに新聞で二人のなれそめを書くのは恥ずかしい。
フューレアは恋愛小説家には向いていないと思う。
「そう? 私はきみが紙面で盛大に惚気てくれるのを楽しみにしているよ」
「んもう。あなたレーヴェン家の嫡男なのよ。そういうのは、硬派じゃないわ」
「フューとのことなら、盛大に惚気たい気分なんだ」
「そういうの、新婚ハイって言うのよ」
「いいね。新婚の気分を忘れないよう、いつでも二人で仲良くしようね」
仲の良い夫婦が理想のフューレアには嬉しい言葉なのだが、なにか妙な迫力もあって素直に頷くとあとが大変そうな気がするのは気のせいだろうか。現に今も背中に回す腕の力がぎゅっとなった気がする。
フューレアは話を変えることにした。
「そうそう、わたしの手記書き溜まったら出版されるのだそうよ。それでね、わたし考えたのだけれど印税はリューベルン連邦の孤児たちのために使ってもらうと思うの」
「いい考えだね」
「その件で本当のお父様にも相談をしようと思って」
「わたしの手記ね、好調なのですって。このままでいくと、旅行記もそのまま連載できそうよ」
そのことを聞いたのはつい最近。元姫君の冒険譚に興味津々らしく、連載の評判もよいためこのまま十七歳になって旅立ったあとのことまで書いてもいいということになった。
とはいえ、二年分を書くと中だるみが生じるからとか言って、厳選エピソードのみの連載になりそうだが。
「おめでとう。夢がかなったね」
「ありがとう。これくらい派手にすれば、まかり間違ってもリューベルン連邦の王族たちに利用されないと思うのよ」
どうせ居場所を公表するのなら派手に目立ってしまおうと思った。
開き直りとも言うけれど、国を出て元気に暮らしていますと故郷の人たちにも知ってもらいたかった。悲劇の元姫君とは思ってほしくなかったのだ。
「そんなこと、私が絶対にさせない」
「たぶん大丈夫。リューベルン連邦の皇帝陛下ときちんと約束を交わしたわけだし。わたしはもうフューレア・レーヴェンだもの」
正式にフィウアレア・モルテゲルニーとしてロルテームへ亡命を果たしたわけだけれど、フューレアという名前にも愛着ある。だからこれからもフューレアという名前を使うことにした。
フューレアの発表した手記は大反響で、身辺も色々と変化した。
というのも、元姫君と分かった途端にフューレアと仲良くしようとする人々が大挙としてレーヴェン公爵家に繋ぎをとってきたからだ。生まれも知れぬ養女が次期公爵夫人などと、とフューレアを軽視していた人々が手のひらを返すさまはなかなかにうすら寒いものがあった。
貴族の妻としてのお付き合いも今後の仕事の一つだが、フューレアは物書き業が忙しくて屋敷に籠る日々を過ごしている。
「キールシュ氏からも手紙が来たよ。どうやらエデュアルト・ヘームストはしばらくの間牢に入るみたいだよ」
「そう」
ロルテームでそれなりに暴れたエデュアルトはカールによって引っ立てられ、リューベルン連邦内で刑に処されたとのことだ。
「そういえば、旅行記のあとは、ギルフォードとのロマンスをたっぷり書いてください、なんて言われてけれど……これはわたしたち二人だけの秘密ってことでお断りしようと思うの」
さすがに新聞で二人のなれそめを書くのは恥ずかしい。
フューレアは恋愛小説家には向いていないと思う。
「そう? 私はきみが紙面で盛大に惚気てくれるのを楽しみにしているよ」
「んもう。あなたレーヴェン家の嫡男なのよ。そういうのは、硬派じゃないわ」
「フューとのことなら、盛大に惚気たい気分なんだ」
「そういうの、新婚ハイって言うのよ」
「いいね。新婚の気分を忘れないよう、いつでも二人で仲良くしようね」
仲の良い夫婦が理想のフューレアには嬉しい言葉なのだが、なにか妙な迫力もあって素直に頷くとあとが大変そうな気がするのは気のせいだろうか。現に今も背中に回す腕の力がぎゅっとなった気がする。
フューレアは話を変えることにした。
「そうそう、わたしの手記書き溜まったら出版されるのだそうよ。それでね、わたし考えたのだけれど印税はリューベルン連邦の孤児たちのために使ってもらうと思うの」
「いい考えだね」
「その件で本当のお父様にも相談をしようと思って」