訳あり令嬢は次期公爵様からの溺愛とプロポーズから逃げ出したい
 名前を取り戻したフューレアは今後、本当の父とも何の制約もなく連絡を取ることが出来る。先だって手紙が届いてとても嬉しかった。結婚おめでとうと書かれてあって、思わず涙ぐんだ。

「来春には会えるのか。事後承諾になってしまうけれど、フューレアとの結婚を認めてもらわないとね」
「娘さんを私に下さいって?」

 もう手紙で認めてもらっているはずだけれど、物語の中にある恋人の男性お決まりの台詞を口にしてみる。

「そう」
「隣のわたしまでドキドキしそうよ」

 フューレアはぎゅぅっとギルフォードに抱き着いた。
 こんな未来想像もしていなかった。
 本当の父であるフィウレオ・モルテゲルニー公爵が来春ロルテームへ来訪する。

 フューレアが(公式的には)見つかったということで、ゲルニー公国とは関係のない公爵の個人の資産を譲渡したいと手紙が来たのだ。手紙には母の愛用の品なども渡したいと書いてあった。もう二度と会えないと思っていた父からの手紙にフューレアは泣いてしまった。

 人生なにが起こるかわからない。
 この言葉が何よりも似合う、怒涛の半年間だった。
 短い間にフューレアの運命は大きく変わった。

「さあ。張り切って執筆をしないとね」

 フューレアは勢いよくギルフォードの膝の上から降りた。
 旅行記にたどり着くにはまだ書かねばならないことがあるわけだし。やはり筆が乗っているうちに書いておきたい。
 フューレアは休憩を終えて急ぎ自分の部屋へと戻った。

 * * *

 一方のギルフォードといえば。
 これからフューレアと存分にいちゃいちゃする予定だったのに、逃げられてしまった。

「まったく。きみは昔から私を焦らす才能に溢れすぎだよ」

 嘆息とともに吐き出して、ギルフォードはやれやれと頭を掻いた。
 けれども、フューレアの鈍いところも純粋なところもギルフォードは愛してやまないのだ。やっとの思いで手に入れた愛らしい妻に、今日も放っておかれて内心寂しくはあるけれど。

 それでも彼女は手の届くところにいる。己の隣を安息の地と定めてくれた。

「もう、離さないよ。フュー」

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