ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 その気安い問いに、王妃は目を見開いた。

「あら、そうね。どうして気づかなかったのかしら」

 昼間目にしたハニーブロンドと緑の瞳は、ラウエンシュタイン家の特徴ではないか。
 茶会の時、あの娘はずっと目を伏せていたが、あそこまで見事に緑の瞳を持つ者は、ブラオエルシュタイン国ではそうはいなかった。あの令嬢は、マルグリットとイグナーツの娘だったのだ。

 イジドーラとマルグリットは社交界デビューが近く、ふたりとも公爵家の令嬢であったため、何かと比べられることが多かった。マルグリットの見事なハニーブロンドと、自分のくすんだアッシュブロンドが話題にされ、たびたび悔しい思いをしたものだった。

 イジドーラはマルグリットが嫌いだった。だが、彼女はもういない。

 あの令嬢にマルグリットの面影はあっただろうか? ふと思って、イジドーラ王妃は首をひねった。

 所作の美しい娘ではあったが、どうも顔が思い出せない。昼間にはあれだけまじまじと観察したというのに、あるのはぼんやりとしたイメージだけ。

 人間観察に長けたイジドーラにしてはめずらしいことであった。

「解せないわ」

 たたんだままの扇を口元にあて、イジドーラはつぶやいた。

< 125 / 2,019 >

この作品をシェア

pagetop