ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
「ねえねえ、聞いた? ヨハン様のプロポーズの話」
「聞いた聞いた! 勢いで申し込んで、あっさりエラ様にフラれたって話」
「何気に玉砕(ぎょくさい)!」
「見事に玉砕!!」

「それにエラ様、貴族籍を抜けるって話」
「それ、知ってる! 男爵令嬢やめて平民になるって話」
「え? 平民に? それってあたしたちにもチャンスありってこと?」
「やった! エラ様、お嫁に来てほしい!」

「でも女同士じゃ結婚できないし。うちの弟にいかせよっかな」
「あんたんトコの弟になんてやんないわよ」
「そうよそうよ! エラ様はあたしのものよ!」
「同性婚賛成!」
「同性婚推進!!」

 ここは公爵家の洗濯場。パリッと乾いたリネンのシーツを手際よく畳みながら、洗濯担当の三人娘が今日もおしゃべりに精を出している。

「あっ! もうこんな時間!」
「ホントだ! リーゼロッテ様のお渡りに間に合わせなきゃ」
「急いで急いで!」

 畳んだリネンを大きなワゴンへと乗せていく。寝具のリネンは数が多いとなかなかの重量級だ。それでも手慣れた様子で三人娘は積み終わったワゴンを押して、洗濯場から大廊下へと急いで進んでいった。

「あ! よかった、間に合った!」
「じゃあ、ワゴンはここらに置いて」
「今日は結構いいポジション!」

 ほかにも使用人たちが並ぶ廊下で、三人娘も同じように(はし)に寄って頭を下げた。廊下の奥からリーゼロッテが歩いて来る姿が小さく見える。その後ろにはエラもついてきているようだ。

「今日はエラ様も一緒ね」
「旦那様も久しぶりの王城出仕だったもんね。そりゃ万全にお迎えしなきゃ!」
「でもでもリーゼロッテ様、ここ数日お熱を出されていたって話」
「そうそう、何でもお庭で散策中に雨に降られたって話」
「旦那様もお怪我をされたり、なんだか最近ついてないって感じ」
「あ! ほらもう、しっ」

 近づくリーゼロッテ一行に、三人娘は慌てて口をつぐんだ。頭を下げつつも、その姿を目に焼き付ける。

「はあぁ、今日もリーゼロッテ様、超可憐!」
「超妖精!」
「超精霊!」

 リーゼロッテが去った途端、おしゃべりは再開された。三人娘の感嘆の声を、周囲の者たちも微笑ましそうに聞いている。

「リーゼロッテ様、早くお嫁にきてくれないかなぁ」
「うんうん、そしたら奥様のために全力でがんばっちゃう!」
「そうなるためにはやっぱりアレよね……」

 三人娘は目配せし合い、円陣を組んで手を重ね合わせた。

「なんにせよ、頑張れ旦那様!!」

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