ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第1話 膝の上のまどろみ】

「ヴァルト様……こういったことは婚姻を果たしてからでないと……」

 誰もいないふたりきりの部屋で、うすい布を(へだ)てた向こう、リーゼロッテの鼓動が手のひらに直接響く。

 驚きと羞恥で(うる)む瞳は、この旅の意味を知らなかったことを物語っていた。それを始めから分かっていても、もう指の動きを止めるなどできはしない。

「誓いならば先ほど泉で果たしただろう。問題ない。オレたちは正式に夫婦となった」

 息を飲む首筋に、いくつも口づけを落としていく。夢にまで見たやわらかな肌を、余すことなく(あば)きたい。

 そしてリーゼロッテのすべてに消えない(しるし)を、永遠に、刻み続けたい――


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