ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第20話 不機嫌の肖像】

「ねえ、エラ、どうかしら?」

 水色の可愛らしいドレスを着たリーゼロッテは、その場をくるりと回ってみせた。ドレスの裾がふんわりと広がって、最後にリーゼロッテは優雅に礼を取った。

 エラは胸の前で祈るように手を組み、「まああ、素晴らしいですわ、お嬢様!」と、心からの称賛の声を上げた。

 リーゼロッテは社交界デビューに向けて、少しでもコルセットに慣れるために、屋敷の中でもドレスを着て過ごすようになっていた。というのは建前で、ジークヴァルトに贈ってもらったドレスをただ着てみたかっただけである。

 そのことはエラにもわかっていたが、うれしそうな主人に水を差すような真似はもちろんしない。エラにとって、リーゼロッテが笑ってくれるなら、それはすべて正義なのだ。

 いつもより高いヒールの靴を履き、屋敷の廊下を慎重に歩く。

 胸に揺れるのは、ファビュラスでゴージャスな首飾りからはずした守り石を、ペンダントに作り替えてもらったものだ。今までのペンダントより鎖が長いので、守り石はリーゼロッテの胸の真ん中辺りで揺れている。

 うれしそうに日替わりでドレスを着て歩くリーゼロッテを見て、屋敷の者は一同ほっこりとした視線をリーゼロッテに送っていた。

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