ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第4話 永遠の鍵】

 儀式は(おごそ)かにとり行われていた。

 王城の敷地内に隣接(りんせつ)するビエルサール神殿では、五穀(ごこく)豊穣(ほうじょう)を感謝し、これから(きた)る厳しい冬を無事に過ごすことを祈願する、王族による祈りが(ささ)げられていた。

 王都と同じ名を冠するこの神殿は、通称、本神殿と呼ばれている。国の各地にある神殿と教会を取りまとめる総本山であり、王族専用の最も格式高い神殿である。

 今日の祈願祭には数多くの貴族たちが集まっていた。

「今日のディートリヒ王は一段と壮健だな」
「王妃殿下も相変わらずお美しいこと……」

 あちこちから囁き声がもれる。
 この式典は出席の義務などはないが、子爵位以上の貴族当主とその伴侶なら、自由に参加することができた。

 王族に謁見(えっけん)できる数少ない機会でもあるため、少なくない数の貴族たちが、少しでも王族との距離を縮めようと、広く肌寒い聖堂の中で王族の一挙一動を見守っていた。

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