ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 鮮やかな青いマントを(ひるがえ)して、ディートリヒ王が祭壇へと向かう。その少し後ろを、白銀のドレスを着たイジドーラ王妃が続く。
 その後方で、頭を下げて控えているのは、王太子であるハインリヒ王子と、クリスティーナ第一王女だ。

「クリスティーナ王女殿下がご参加されるとはめずらしい……」
「テレーズ様が隣国へ輿(こし)()れされてから、時折、クリスティーナ様がお姿を現わされるようになったわね……」

 クリスティーナ王女は生まれつき病弱で、滅多なことでは公の場に現れない幻の王女と呼ばれている。今までは第二王女のテレーズが公務を務めていたが、彼女が隣国への王族へと嫁いでからは、ハインリヒ王子が公務のほとんどをこなしていた。

「遠目に見ても、あのご姉弟は見目(みめ)(うるわ)しいな……」

 目が覚めるような赤毛の王に、アッシュブロンドの王妃に対して、王女と王子の持つ髪は(つや)やかなプラチナブロンドだ。イジドーラ王妃は後妻であるため、ふたりと似ていないのは当然なのだが、母親譲りの容姿を持つ子供たちは、父であるディートリヒ王の面影(おもかげ)は限りなく薄い。

「おふたりはますますセレスティーヌ様に似てきたようだ……それに引き換え王には似ても似つかぬのはやはり……」

 前王妃であるセレスティーヌの不義を疑う下卑(げび)た噂がいまだに(ささや)かれる中、儀式は粛々(しゅくしゅく)と進められていった。

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