ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ふと、ここからいちばん遠い円卓に目がとまり、思わずその目を見開いた。
 王太子である自分に興味なさげに、遠巻きにたたずんでいる数人の令嬢がいたのだが、そのひとり、遠目に見ても華奢と思える小さな令嬢が、こともあろうに“とんでもないもの”を背負っていたのだ。

「おい、ヴァルト、あれを見ろ」

 手袋をはめた指でその令嬢を指し示す。

 時折、気に入られたのか取りつかれたのか、その身に異形の者(・・・・)をつけて歩く者がいるにはいるが、あそこまでの人間は今まで見たことがなかった。

 その令嬢の様相は、砂糖に群がる(あり)を連想させた。

 普段、感情を表にあらわさないジークヴァルトも、さすがにぎょっとしたようだ。ジークヴァルトが二度見をするなど、そうあることではなかった。

 意味もなく、してやったり感をおぼえたが、あの令嬢を放っておくわけにもいかず、ハインリヒは王太子として、ジークヴァルトに何とかするように命令する。

 早く行けと、手をはためかすと、ジークヴァルトは一目散にその令嬢を目指していった。

 あのヴァルトが平静を欠くとは。おもしろいものが見られたものだ。

 そう思ったことは、ジークヴァルトには内緒にしておこう。からかうネタは、ここぞというときにとっておくべきだ。

 ハインリヒはそんなことを思いながら、事の成り行きを目で追ったのだった。

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