ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第6話 眠り姫の憂鬱】

「リーゼロッテ様ぁ、おはようございますぅ。お()()えのお時間ですよぅ」

 三時間越えの晩餐(ばんさん)を乗り越え、昨夜は疲れ切ってぐったりと眠ってしまった。そのおかげというべきか、夢も見ずにぐっすり眠れて、いつも以上に目覚めの良い朝を迎えたリーゼロッテだった。

 しかし好調な体とは裏腹に、精神はダメージをくらったままだ。夕べは大勢の使用人たちが見守る中、繰り広げられたあーん攻撃に、最後の方は無心で咀嚼(そしゃく)を繰り返した。

(どうせなら、もっと味を堪能(たんのう)したかった……)

 遠い目をしてリーゼロッテは、侍女の手を借りて夜着を脱いだ。

「本日はこちらのドレスでよろしいですかぁ。お気に召さないようでしたら、他のものをご用意いたしますぅ」
「ええ、ありがとう。これで大丈夫よ」

 リーゼロッテは微笑んで差し出されたドレスに(そで)を通していく。

「わぁ! リーゼロッテ様は、すぅごく綺麗な龍の祝福をお持ちなんですねぇ!」

 胸の龍のあざを目にした侍女が着替えを手伝いながら、感嘆(かんたん)の声を上げた。
 彼女はエラ付きの侍女として公爵家に(やと)われていたが、今日はエラもエマニュエルもいないため、リーゼロッテの世話係として配されていた。

「ふふ、コンテストで優勝できるかしら? でも、他ではそのような発言は控えたほうがいいわ、ベッティ」

 リーゼロッテが困ったように微笑むと、侍女のベッティは大げさに口に手を当てた。

「ぃやだ! わたしってばまたやらかしちゃいましたぁ! お体について言及するなんて、超絶(ちょうぜつ)不敬(ふけい)ですよね? 懲罰(ちょうばつ)ものですよね? ムチですか? 貼り付けですか? 縛り首ですかぁ?」
「ば、罰など与えないわ。これはあなたの今後のために言っているだけだから……」
「わぁ、さすがリーゼロッテ様はおやさしいですぅ! 羽虫のようなわたしの名前までご記憶くださってるなんて、このベッティ、今日はリーゼロッテ様に誠心誠意(せいしんせいい)お仕えさせていただきますぅ。あ、髪も()わせていただいてよろしいですかぁ?」

(ベッティは、ちょっとかわった()ね……)

< 801 / 2,019 >

この作品をシェア

pagetop