僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい
俺の居場所は、紫月さんの家?
「それで、いいんですか?」
「むしろそれがいい」
「弟さんが目を覚ましても、紫月さんの家が俺の家でいいんですか?」
「ああ。蓮が目を覚ましたら、三人で俺の家で暮らすだけだ」
馬鹿げている。仲睦まじい兄弟みずいらずのところに他人の俺が入るなんて変だろう。それなのに、どうして。
「いいんですか、そんなの」
「ああ、いいよ。俺は蓮が死なないで、お前が怪我をしないで俺の隣で生きてくれるなら、それ以外はどうでもいい」
本気でそう思っているのだろうか。
「俺がいるせいで紫月さんの人生が無茶苦茶になるとしても、それでいいんですか?」
「俺の人生は俺が守る。こんなクソ姉に、俺の人生を壊させる気はない」
紫月さんの瞳が光っている。暗い駐車場の中で、紫月さんの瞳だけが、光を放っている気がした。瞳には、とても強い意志が秘められているような気がした。
「わあ。かっこいいですね、お兄さん。頑張ってくださいね。その言葉が、嘘にならないように」
不穏なことを言って、姉ちゃんは笑う。
「嘘にはさせない。たとえ、何が起きようとも」
紫月さんが俺の腹を握っている手に少しだけ力を込める。温かい。とても安心する。
紫月さんの言葉が嘘にならないように。紫月さんがずっと、俺のそばにいてくれるために、俺もできる限りのことをしないと。紫月ちゃんを姉ちゃんから守りたい。いつも姉ちゃんの言いなりで、学生で金のない俺にできることなんて少ないかもしれないけれど、それでも、紫月さんを守りたい。強くなりたい。紫月さんと、生きていくために。
「紫月さん、俺も頑張ります。紫月さんと一緒の未来を作れるように」
「よく言った、上出来」
紫月さんが俺の頭を撫でる。前みたいに頭に触れる寸前で手を離さないで、ちゃんと撫でてくれた。
「なんで今日は、撫でてくれたんですか?」
「俺はもう蓮夜から離れないから。未来永劫」
そう言って、紫月さんは笑った。
その言葉だけは、嘘にならないで欲しい。絶対に。どうか未来永劫、俺から離れないでください、紫月さん。紫月さんがいなかったら、俺は生きていけないから。