僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい
駐車場の側から人がいなくなって、母さんが俺達のところに戻ってきた。
「ありがとう、お母さん」
「お前に礼を言われるためにしたわけじゃないと思うけどな」
紫月さんがすかさず、姉ちゃんに突っ込む。
「じゃあ誰のためにしたって言うの? 蓮夜のため?」
「……ええ、蓮夜のためよ」
そう言って、母さんが俺の頭を撫でる。
「もう諦めろ、飾音。ここにお前の味方は一人もいない。自首しろ」
「お断りします」
陶器のように冷たい顔で、姉ちゃんは笑う。
紫月さんが初めて姉ちゃんを名前で呼んで言ったのに、姉ちゃんには全然響いていなかった。
実の弟を死ぬ寸前まで追い込んだくせに、捕まる気はないのかよ。……なんだよそれ。捕まる気がないなら、あんなことするなよ。俺がどれだけ嫌な想いをしたと思っているんだ。……ふざけるなよ。
初めて、姉ちゃんを本気で、憎いと思った。
「はあ。蓮夜、これで車のロック、解除して。遠くからでも開けられるから」
紫月さんが首にかかっているストラップを外して、俺に渡す。
ストラップを受け取ると、俺は首を振って、余計な思考を振り払った。
いけない。怪我人の紫月さんよりも、姉ちゃんの方につい意識が向いてしまった。今は姉ちゃんより、紫月さんを優先しないとなのに。
ストラップには銀色の鍵と、黒くて四角いものがついていた。四角いところの真ん中にあるボタンを押すと、ガチャッと、紫月さんの車が音を立てた。
「……騒ぎになるのは嫌なんだろ? それなら救急車は呼ばないでやる。ただし病院には行くからな」
姉ちゃんを見ながら、紫月さんは言う。
「はい、それで構わないです。まあ私は、医者に聞かれても、お兄さんが怪我をした理由は話しませんけど」