僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい
傷の手当が終わると、紫月さんは俺に礼を言ってからキッチンに向かった。俺は慌てて立ち上がって、紫月さんの後を追った。
キッチンは入り口の右側にシンクとガスコンロがあって、その向かいに食器棚と、メタル製の四段ラックと冷蔵庫が横並びで置かれていた。ラックの一番上にはレンジがあって、二段目にポットと炊飯器、三段目にティーバッグやポケットシュガーが入ったカゴ、四段目にカップラーメンが置いてあった。
「蓮、何か飲むか? お茶とココアとコーヒーと紅茶があるけど。あ、紅茶だったら、この中から選んで」
紫月さんはティーバッグが入ったカゴを手に取ると、それを俺に見せた。
カゴの中には十種類以上のティーバッグがあって、オレンジやベリーなどの定番のもあれば、逆にマルコポーロとかいう味も色も全く見当もつかないものまであった。
「何でこんなに種類があるんですか?」
「毎日同じもの飲んでると飽きるから。それにほら、俺、弟のこと考えんのが習慣になってたからさ。飲んだことない紅茶とかが売ってると、弟に飲ませてやりたいなとか思って、ついつい買っちゃうんだよな」
「……そうですか」
どうしよう。なんて言葉をかければいいのか全然わからない。
「それで何がいいんだ?」
俺が困っているのを察したのか、紫月さんは自分から話を元に戻した。
ああ、気を遣われてしまった。
ごめんなさい、紫月さん。
「じゃあオレンジで。でも俺、自分でやりますよ」
俺は心の中で謝ってから口を開いた。
「いいよ。ソファにでも座っとけ」
オレンジのティーバッグをとってから、紫月さんは手を左右に振って拒否した。
紫月さんがカゴを元の場所に戻してから、食器棚からコップを取り出す。
「いや流石にソファは」
「ハッ。遠慮してんのか? 気にすんなよ、ここは蓮の家みたいなもんなんだから」
紫月さんは随分陽気な態度で、とんでもないことを言い放った。
「え」
「え、じゃねぇよ。当たり前だろ、これから一緒に生活すんだから」
紫月さんは怪訝そうな顔で俺を見つめた。
「本当に一緒に生活していいんですか?」
「ここまできといて今更何言ってんだよ。良いに決まってんだろ」
紫月さんは手に持っていたコップで俺の頭を軽くこづいた。