僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい

 青い門をくぐると、そこには随分と賑やかな世界があった。
 肉まんのお店に、シュウマイのお店、イチゴ飴のお店など、さまざまな出店がある。そしてそれぞれの店に、十人くらい人が並んでいた。人々は行列に並んだ末にやっと買えた食べ物を口に運びながら、楽しそうに笑っていた。

『美味しいね』
『んー、イチゴ飴めっちゃ甘い! 最高!』
『こらこら、あんまり早く食べると、喉に詰まるぞ』
 カップルが笑いながら食事をする声や、父親が信じられない速さで肉まんを食べている子供に呆れる声など、さまざまな声が飛び交っていた。

 ……いいな、みんな楽しそうで。

 俺は何も言わず、紫月さんの服の裾をギュッと掴んだ。
「蓮夜、何食べたい? 何でも食べさせてやるよ。何てったって、お前は俺の息子も当然なんだから」
 紫月さんが俺を見つめて、当たり前のように言う。紫月さんにお義父さんになって欲しいと思っていたから、俺はその言葉を聞いて、すごく嬉しくなった。嬉しすぎて、涙が溢れ出してくる。俺は慌てて涙を拭った。

「俺、初めてだから、中華街回りながら決めたいです」
「じゃあゆっくり回って決めよう」
 そういうと、紫月さんは俺の涙を、そっと手のひらで拭った。

「あ」
 俺は『老衣新』という出店の前で、足を止めた。店員が、ショーウィンドウの前にいる客にパンダの顔の形をした中華まんを渡していた。店のそばにいる客は、白はもちろん、ピンクに緑に茶色など、さまざまな色の手のひらサイズのパンダを持っていた。

「可愛い」
「蓮夜、気になる?」
「す、少し」

 結構人気のお店らしく、店には二十人以上の人が並んでいた。しかも女の人かカップルばかりが並んでいる。あそこに、男二人で並ぶのはだいぶ恥ずかしい。

 紫月さんは何も言わずに俺の腕を掴んで、列に並んだ。

「ただいまパンダまんは入場制限中です。お買い上げの方は列が空いてからお並びください」
 俺達が列に並んだところで、店のそばで宣伝をしていた店員が言った。

 え、入場制限?

「ふー、ギリギリセーフだな。ここ人気だから、すぐに入場制限かかるんだよ。そのせいで、俺も何度か食えなかったことがある」
 紫月さんがため息を吐いて、安心したように笑う。

「そうなんですか? すごい人気ですね」
「ああ。それにしても蓮夜って、やっぱり可愛いものが好きなんだな」
「ち、違います」
 ブンブンと首を振りながら、前にいる人の後を追って足を進める。

「じゃあなんで、ここで足を止めたんだ?」

「……可愛いものを見ると、穏やかだった頃の姉ちゃんを思い出せるから。姉ちゃんは事故に遭う前はよく、花の形のイヤリングや大きなリボンなどの可愛いものを買っていたんです」
「ああ、そういえば部屋も花柄だったな」
 紫月さんは俺が姉ちゃんの話をしてもあからさまに顔をしかめないで、変わらない態度で話してくれた。
「はい、姉ちゃんは可愛いものを見るたびに、楽しそうに笑っていたんです」
「そっか。じゃあ虐待の問題が全部解決したら、もう一回ここに来て、姉ちゃん用のパンダまんを買おう。金は俺が払うから」
「え、いいんですか?」
 思いがけない提案に驚いて、つい口角を上げる。
「ああ、もちろん」
 紫月さんは機嫌良さそうな顔で笑って頷いた。

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