僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい
『それじゃあ、七時にね。またね、蓮夜』
俺が泣き始めてから十分ほどの時間が経ってから、母さんは言った。どうやら、俺が泣き止むのを待ってくれたみたいだ。
「うん、ありがとう。またね、母さん」
涙を拭って、俺は通話を切った。
「蓮夜のお母さんって、偽善者だったんだな」
「え、偽善者? 違いますよ。母さんはいつも俺に優しいんですよ?」
「優しい、ね」
俺を見て、紫月さんは呟く。
「え?」
「なあ蓮夜、お前の虐待が早く解決しなかったのは、母親のせいじゃないか?」
「え、何言っているんですか?」
「あの母親は、お前が虐待をされているのを見て見ぬふりしていただけだ。お前が助けてって言わないからって、今までずっとお前を助けなかった! それのどこが優しいんだ?」
鈍器で頭を殴られたような気がした。
「でも、姉が弟に暴力を振るっていることなんて、警察に言いづらいじゃないですか」
「ああ、それはそうだろうな。でもそれが、お前が虐待を四年間耐える理由にはならないんだよ! よく考えろよ、蓮夜。誰がいい人で、誰が悪い人なのか。誰といたら、自分は一番幸せになれるのかよく考えろ」
母さんが偽善者? そんな風には、考えたことなかった。俺はいつだって虐待が悪化しないことばかりを考えていて、母さんが虐待を見て見ぬ振りしているなんて、考えたこともなかった。紫月さんの言う通りなのだろうか。
「優しいだけじゃ、ダメなんですか?」
紫月さんの服の裾を掴んで言う。
「優しいだけじゃ、誰も救えない。誰も救えないんだよ」
眉をへの字にして下を向いて、悲しそうに紫月さんは言った。弟さんのことを言っているのだろうか。