意地悪な副社長との素直な恋の始め方

「こんにちは! 紗月(さつき)さん」


真っ先に声をかけて来たのは、淡い水色のワンピースを着た女の子。
大きな丸い瞳以外はどのパーツも小ぶりで、かわいらしい顔立ちだ。

栗色の髪を緩やかに編み込んでアップにしているので、細い首筋や華奢な肩が強調され、男性の保護欲をかき立てそうだ。

そして、その場にいたもう一人。黒く長めの髪型をした二十代と思われる若者は、とても背が高かった。しかも、「超」がつくほどのイケメンだった。


(レベル高っ! モデルとかできそう……)


闇よりも深く濃い黒の瞳でじっと見つめられると何とも言えない心地になる。
気を悪くさせかねないと思いつつも、つい目を逸らしてしまった。


「こんにちは、芽依(めい)ちゃん。これは、わたしの娘の偲月(しづき)。よろしくね?」

「芽依です。同い年の偲月ちゃんが来てくれてとっても嬉しい。よろしくお願いします! ほら、朔哉(さくや)お兄ちゃんも!」


「朔哉。K大学四年です。よろしくね? かわいい妹がもう一人できて、嬉しいよ」

「ど、どうも……」


目が潰れてしまいそうなほどまばゆいイケメンの微笑みに、わたしの野生の勘がけたたましく警鐘を鳴らした。


(う、うさんくさいっ!)


幼少期から自由過ぎる母親に振り回され、度々見ず知らずの人間との同居、転校を繰り返した経験から、瞬時に危険な相手かどうかを見極める目には自信がある。

目の前のイケメンは、裏表があって擬態も巧妙。一番関わり合いになりたくないタイプだ。

よほどわたしの顔が引きつっていたのだろう。
朔哉は、いきなり距離を詰めて覗き込んできた。


「どうしたの?」

(近い近い近いっ!)

「え、ええと、なんでも……」

「何か気に入らないことしちゃったかな?」


悲しげに眉根を寄せてせつなげな溜息を吐く朔哉は、ますます美しくて……うさんくさい。


「正直に教えて? 家族になるんだし、隠し事はしないでほしいな」


鼻先がくっつくくらい近づかれ、全身の血が一気に顔面へ集まるのを感じた。
闇よりも濃い黒の瞳に覗き込まれると心臓が破裂しそうに鼓動を速める。


(な、なにこれ……なんで、わたしっ……どうなってるのっ!?)


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