意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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朔哉のせいで、二つ開けていたボタンを一つにし、シゲオが見たらダメ出しされそうなイマイチな恰好で出社。
出戻った総務部のオフィスで待っていたのは、溜まりに溜まった仕事とサヤちゃんの期待のまなざしだった。
「おかえり、偲月ちゃん! 合コンはどうなった?」
「えっと……ゴメン、まだ……」
「副社長がダメなら、広報の流星さん繋がりでもいいんだけど?」
「は? 流星さん?」
「うちの課長に、偲月ちゃんのこと聞きに来てたから。入社式の写真、偲月ちゃんが撮ったんだってね?」
「あ、ええと、それは……」
「ドラフトをこっそり見せてもらったんだけど、副社長の笑顔、ステキだったわぁ……」
うっとりしている彼女に、今朝の朔哉の暴君ぶりを訴えたくなったが、妄想を煽るだけかもしれないと思い直した。
「副社長は雲の上だけど、流星さんは頑張れば手が届くかもしれない。来る者拒まず去る者追わずみたいだし。ただ、とっかえひっかえしている恋人がレベル高いって噂で……。あ、でも、偲月ちゃんならいけるかも?」
パソコンに入力したり、決裁に回したりと、書類の山をさばきながらもサヤちゃんのおしゃべりは止まらない。
「いやいや、無理だし」
「そうだよね。そんなこと、副社長が許さないよねぇ」
「は、はは……」
(流星さんには、何となく朔哉と似たものを感じる……。ってことは、つまり、絶対何かと面倒なタイプ)
「それにしても副社長、なんで偲月ちゃんじゃなく『妹』を傍に置くことにしたの?」
情報通のサヤちゃんは、いったいどこでどうやって把握したものか、すでに芽依が秘書として朔哉の傍にいることを掴んでいた。