意地悪な副社長との素直な恋の始め方
濃く、強い想いに、黒く塗りつぶされた瞳に浮かぶのは、鬱屈した光。
美しい顔は、怖いくらいに無表情。
普段の余裕たっぷりにわたしをからかう姿とはかけ離れたその様子に、足が竦む。
朔哉は、立ち尽くすわたしの目の前までやって来ると腕を掴み、リビングを出た。
階段を上がり、連れて行かれたのは廊下の突き当たり。
一度も足を踏み入れたことのない、彼の部屋だった。
突き飛ばされるようにしてベッドに倒れ込み、馬乗りになってこちらを見下ろす朔哉を見上げる。
何を言えば、どう取り繕えばいいのかわからずに、頭に浮かんだ問い――一番知りたいことを口にした。
「ねえ……芽依のこと、好きなの?」
「ちがう」
「隠すことないじゃない。別に、……」
「何も知らないくせに、わかったようなことを言うなっ!」
朔哉を問い詰め、追い詰めようと思ったわけではない。
ただ、誰にも言えない気持ちを抱えているのは苦しいのではないか。いっそ吐き出してしまえば楽になれるんじゃないか。
そう思ったのだ。
しかし、朔哉は秘めた思いを打ち明ける代わりに、わたしの口を封じる方を選んだ。
苛立ち、憎しみ、絶望、欲望、いろんなものが入り混じったキスで。
「んぅ……っ!」
広い肩を押しやり、胸を叩こうとした手を捕らえられ、シーツの上に縫い止められる。
叫ぼうとした拍子に開いた唇から、舌を入れられて、そこから先は何がなんだかわからなくなった。
(な、に……これ?)
キスくらい、元カレたちと何度も経験している。
けれど、朔哉とのキスは、これまで経験したどんなキスとも、まったくちがっていた。
柔らかくて熱い唇と舌の感触に、頭がクラクラして、まともに考えられない。
身体がどんどん熱を帯び、貪欲さを増していく。
のしかかる彼の重みも、Tシャツをまくり上げ、素肌に触れる手の熱も、不快ではなかった。
(わ、たし……オカシイ……なんで……)
自分の反応に戸惑っていると、不意に朔哉が動きを止めた。
わたしを見下ろす顔に浮かぶのは、「欲望」ではなく「後悔」。
「まっ……」
青ざめ、動揺に目を泳がせ、離れようとするその腕をとっさに掴んだ。
やめてほしくなかった。
触れ合うだけでは、足りなかった。
満たしてほしかった。
ずっと抱えていた「飢え」と「渇き」を――。
彼が芽依へ注ぐ愛情を目の当たりにするたび、どうして胸の奥が痛み、喉に熱い塊がつかえているような心地がしたのか、理解した。
同じものが、欲しかった。