意地悪な副社長との素直な恋の始め方


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楽園をあとにした月子さんは、行き先を告げることなく、何度か緑のアーチを走り抜け、見覚えのある場所――『Nova Luna』にやって来た。

正面ではなく従業員用と思われる裏口に車を停めて、やけに神妙な表情で訊ねる。


「ねえ、偲月さん。もう少しお付き合いしてくれるかしら? ぜひ見てほしいものがあるの」

「それは、かまわないですけれど……」


見てほしいものというのは、まだ開催中のコウちゃんたちの写真展だろうか。

何度見てもいい写真は見飽きることがないし、と思いながら彼女の後をついていくと指紋認証で管理されたドアを潜り抜け、予想に反してエレベーターで三階へ向かう。


「一階は、イベントスペース。二階は事務所。三階は、個人的なギャラリー兼仕事場として使っているのよ」


エレベーターを降りた先は、白を基調とした広々としたワンフロアになっていた。

部屋の一方は大きな窓になっており、その対角には簡素なキッチン、バスルームへと続く扉がある。

中央には、カウチソファーと一人掛けのソファーがいくつかあり、一方の壁に沿ってパソコンが据えられたデスク、キャビネット、本やDVDなどが入り混じった本棚が並ぶ。

もう一方の壁には、大小さまざまな絵画と写真パネル、絵葉書などが飾られていた。
かなりの数があるものの、大きく広いキャンバス代わりの壁にはまだ余白がある。


「そこにあるのは、わたしが自分で見て、気に入って、機会があれば一階のイベントスペースで取り上げたいと思っている芸術家たちの作品よ」


――どんなに売れっ子でも、彼女が気に入らなければイベントスペースの使用を断られる。


シゲオがそんなことを言っていたな、と思い出しながら壁を彩る作品を眺め、ふと見覚えのあるパネルを前にして目を見開いた。


晴れた日の雪原に佇む雪ウサギを撮った一枚。
その下に添えられたプレートに刻まれているのは、わたしの名前だ。

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