意地悪な副社長との素直な恋の始め方

『…………』

『もしもあの頃、わたしがお兄ちゃんに気持ちを打ち明けていたら、偲月ちゃんとそういう関係にはならなかった。ちがう?』

『…………』


朔哉の沈黙が、胸を押しつぶす。

ちがう、と言ってほしかった。

嘘でもいいから。
いまだけでもいいから、否定してほしかった。

でも、朔哉が芽依に返したのは、はっきりとした否定の言葉ではなかった。


『偲月を芽依の代わりだとは思っていない』

『いまは、ね。でも、お兄ちゃんはずっと、偲月ちゃんではなく「わたし」を恋人のように扱っていた。いつも、偲月ちゃんよりわたしを優先してくれていた』

『家族で、妹だからだ』 

『妹じゃない』

『芽依』


芽依は、電話越しでもわかる潤んだ声で、言い募った。


『わたしたちは、二人とも独身で、成人している。本当の気持ちに素直になっても、何の罪にもならない。いまさら結婚をやめられないと言うなら、それでもいいよ。今日だけでいい。ちゃんと諦める。だから……お願い。一度だけでいいから……』


耳を塞ぎたくても、手が、身体が、動かなかった。



『わたしを抱いて? 妹じゃなく、本物の恋人にして』


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