意地悪な副社長との素直な恋の始め方
一歩進むと、二歩下がる


*****



「何か、いいことでもあったのか?」

「え?」


モデル事務所へと向かうタクシーの中、『絶対勝てる!面接術』という動画を見入っていたところ、流星にそんなことを言われ、目を瞬いた。


「顔が、にやけてる」

「え!」


そんなはずはない、と頬を触ってみるが、フツー。
どちらかというと、眉間にシワが寄っていたのではないかと思うのだが。


「昨夜は、朔哉のところへ戻ったんだろ? たっぷりイチャイチャしてきたのか?」

「ち、ちが、イチャイチャなんてっ……」


していない、と言おうとして、朝のキスを思い出す。


「したのか」

「き、キスだけだし!」

「詳細は訊いてねーよ」


恥ずかしさで顔どころか、全身が熱くなる。


「ま、昨日までの不幸のドン底にいるような顔をしてるよりかは、マシだな」

「ふ、不幸のドン底って……そんな酷い顔してな……」

「自分ではわからないもんなんだよ」

「…………」

「で、アイツ、偲月が転職してモデルやること、認めたのか?」

「……まだ、話してない」

「はぁっ!? 何やって……。なるほど。話す暇もないくらい、忙しかったと……」


呆れたまなざしを向けられ、必死に否定する。


「ちがうから! 朔哉が酔って寝ちゃってて、今朝もそんな話をしている時間の余裕はなくて!」

「本当に、それだけが理由かよ? 何となく、言いづらくて先延ばしにしただけじゃねーのか?」


図星だ。


「そんなこと……」

「あのなぁ……そんなに俺と朔哉をガチで喧嘩させたいのかよ? アイツ、ただでさえ俺に反感を抱いてるのに、偲月が自分ではなく俺を頼りにして、相談に乗ってもらったとわかったら、激怒するだろ」

「それは、ちゃんと説明するし……」

「いつ?」

「め、面接に受かって、モデルの仕事を始めることになったら言おうと……」


金曜日のデート、で話すのはよくないような気もするが、かと言って電話やメールで済ますような話でもない。


「今日から始めてくれと言われたら、どうするんだよ?」

「え。まさか、そんなこと……」

「あり得るだろ」

「でも、それはできないって話して……」

「一度断ったら、次のチャンスが貰えなくなるとしても?」


その言葉に、ドキッとした。


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