意地悪な副社長との素直な恋の始め方


「実際にデートする前から、そんなにナーバスになるくらいなら、やめた方がいいんじゃないか? 楽しめないだろ?」


不安に塗れる心境を指摘され、思わず噛みついた。


「さっきから、何なのよっ! 邪魔するなら、付いて来ないで!」

「夜、しかもこんなデートスポットをひとりで歩いていたら、変なヤツに目を付けられるかもしれないだろ」

「だったら、黙っててよ」

「あのな、俺はSPじゃねーんだよ。言いたいことがあれば、言う。ほら、次は観覧車だろ? 中の様子もチェックした方がいいぜ? 横に座れなきゃ、キスすんのは難しいし、どのタイミングで隣に移ればいいか、計算する必要あるだろ?」


流星は、勝手にわたしの腕を取り、引きずるようにして観覧車のチケット売り場へ向かう。


「いや、別にキスしたいわけじゃ……」

「バッカ! おまえ、何しに観覧車乗る気だよ?」

「え、夜景を見るため」

「……本気で言ってんのか?」

「だ、だって、観覧車は、景色を眺めるためのもので……」

「…………」


呆れ顔のままチケットを購入した流星は、そのまま乗り場へ移動。
戸惑うわたしに「乗れ」と命令し、「いってらっしゃいませ~」と見送る係員の手で、扉がロックされた。

もう、逃げられない。


(なんでこんな展開に……)


気まずい以外の何ものでもない状況だ。

しかし、流星にとってはちがうらしく、無邪気に窓の外に広がる夜景を見下ろして「確かに、見るに値する夜景だな」と呟いている。

こうなった以上、わたしも夜景を楽しむしかないようだ、と思った時、鞄の中のスマホが震え出した。

取り出し、画面に表示された名前を見て、焦る。


(さ、朔哉!)


出ようか出まいか迷うわたしに、流星が「出ろよ」とひと言。


「朔哉だろ? おまえ、明日のデートプラン、まだ連絡してないんだろ?」

「う、うん……」

「しびれを切らして架けて来たんだ。さっさと出ろ」

「わかった……もしもし、朔哉? 帰国したの?」

『ああ。偲月、いまどこにいるんだ?』

「え、えっと……」


応答した途端、非常に答えにくいことを訊かれ、言葉に詰まる。


『話しても差し支えない場所か?』

「う、うん」


流星が、両手で耳を塞ぐ仕草をするのを見ながら頷くと、朔哉は低く、冷ややかな声で続けた。


『……なら、訊く。いつ、話すつもりだった?』

「は?」


何のことかわからずに、間抜けな声を上げてしまった。


「え、あの、ごめん、何の話?」

『流星の紹介でモデルの仕事を始めると、いつ話すつもりだったんだ?』


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